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連載春日太一の木曜邦画劇場

原田芳雄演じる主人公だけでなく脇役悪役までキャラ立ちしている――春日太一の木曜邦画劇場

『無宿人御子神の丈吉 牙は引き裂いた』

2024/02/01
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1972年(87分)/東宝/2750円(税込)

 年末に嬉しい知らせがあった。原田芳雄主演の時代劇『無宿人御子神の丈吉』三部作がDVD化されたのだ。

 VHS時代も含め長くソフト化されなかったシリーズで、実は原田が亡くなった際には、付き合いのあった東宝のソフト担当者に掛け合っていたのだ。その担当も乗り気で動いてくれたのだが、結局はなかなか実現に至らなかった。それだけに今回のDVD化の報に興奮した。東宝に感謝だ。

 そこで、今回は第一作『牙は引き裂いた』を取り上げる。

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 喧嘩に明け暮れて過ごしてきた無宿人の丈吉(原田)が、旅先で病に倒れた際に看病してくれたお絹(北林早苗)にほだされて足を洗うところから物語は始まる。だが、過去の因縁が丈吉に平穏な暮らしを許してくれない。かつて痛めつけた渡世人たちから壮絶なリンチを受けた挙句に、お絹と幼い我が子は惨殺されてしまう。丈吉は再び長脇差をとり、復讐の旅に出る――。

 全体的なタッチは当時の時代劇の流行でもあったマカロニウエスタン調だ。大胆なクローズアップ、勇壮な音楽、泥まみれの暴力描写、血塗られた復讐物語と、「座頭市」「眠狂四郎」シリーズなどでケレン味ある時代劇演出を得意としてきた池広一夫監督が存分に腕前を発揮してド派手に盛り上げてくれる。

 そして、この世界に原田芳雄が最高に合っていた。強さと弱さ、激しさと優しさ。対極的な二面性を併せ持つ丈吉を、原田は静と動を自在に演じ分けながら現出していく。

 全身からギラついた暴力性を放ちながら剣を振るいまくるアクションの数々に、まず圧倒される。その一方で、どれだけ相手から理不尽な暴力を受けても必死に耐える堅気時代の姿や、妻子の死を受けて呆然としながらも静かに復讐の炎を燃やす姿など、「静」の芝居もさすがだ。とにかく、激しく動いていても、ジッとたたずんでみても、原田がカッコイイ。

 ヒロイックな原田=丈吉の前に立ちはだかる脇役・悪役陣もまた、キャラクターに富んでいる。サディスティックに丈吉を追いつめてくる内田良平&南原宏治。敵なのか味方なのか、とにかくミステリアスな中村敦夫&峰岸徹。マカロニウエスタンに登場するメキシコの山賊そのものの凶暴さを醸す、野盗役の橋本力&阿藤海。そしてアッと驚く菅貫太郎。誰もが皆、見た目も芝居も役柄も際立っている。

 そんな面々が全身全霊でぶつかり合う肉弾アクションが、留まることのないスピーディな展開の中で次々と繰り広げられるのだから、ダレ場は全くない。全編がそのまま見せ場とさえいえる。

 再評価すべき作品だ。

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