選挙前に流れたフェイクニュース
「日本の記者が柯文哲の選対本部に行くのか? 近いからカネはいいよ。乗せてってやる」
1月11日、台北に隣接する新北産業園区駅の前でタクシーに乗ると、運転手にそう言われた。昨年末時点での柯文哲の支持率は10%台前半だが、たまたま支持者に当たったらしい。二大政党と比べて海外マスコミの注目が低いことや、主席の柯文哲に心酔する人がいることで、民衆党の支持者は日本からの取材者を他党以上に珍しがり、嬉しがる傾向があった。
この日、柯文哲の選対事務所では緊急の記者会見が予定されていた。理由は誤情報への反論だ。今回の総統選での立候補をギリギリで回避した「四番手」の大物が、柯文哲ではなくライバルの侯友宜の支持を決めたという情報が流れ、後にそれがウソであった事が判明したからである。
だが、反論の記者会見の現場からは、良くも悪くも民衆党の個性が透けて見えた。
「地蔵」と化した候補者
柯文哲の選対本部は民衆党のカラーである白と水色が基調で、IT企業のようなデザインだった。台湾の選挙にはお馴染みのパーカーやマグカップなどの政党グッズも、政治的な意味を知らなければ日常で使えそうなほどカッコいい。会見を仕切るのは元大手TV局のアナウンサーで、党首の柯文哲の台北市長時代にスポークスパーソンを務めた美しい女性だ。
会場にいたのは、立法院選の候補者である黄国昌・黄珊珊・周榆修の3人と、党の選対本部長の鄧家基。彼らは口々に、今回の件が国民党の息のかかったメディアによる意図的なフェイクニュースだと主張してみせた。
ただ、会場の見た目は整えられているものの、会見中にはマイクの電源切れが2回も発生。さらに司会の女性が、自分から一番遠い場所に座る周榆修の名前を呼び忘れ、彼は立候補者なのに記者会見で一言も喋らせてもらえず「地蔵」と化すなど、全体的に進行に慣れていなさそうな雰囲気が感じられた。
肝心の話についても、政治キャリアが長い女性候補者の黄珊珊はしっかりしていたものの、あとの面々はキレが悪い。また、名前を呼ばれなかった周榆修はそれから最後まで、気の毒なほど悲しそうな目をして座り続けており、政治家として感情を表に出さない訓練はできていないようだ。党首の柯文哲以外に、資質の高い人材が限られているのが一見してわかる。
社民・れいわ・次世代・みんな・国民新党……
さらに面白いのは、立候補者や党幹部のプロフィールだった。民衆党は柯文哲の個人政党に近いため、とにかく人材がいないらしく、あちこちから立候補者をかき集めているようなのだ。