「党首の演説中もスマホを見る支持者たち」
1月11日夜、台北市内の北門広場で開かれた民衆党の集会にも足を向けてみた。翌日夜の大集会とは違い、この日集まったのは数千人ほどで空席も多い。同日にすぐ近くで行われた与党・民進党の集会が公称15万人を集めたのと比べると、組織的な動員力の弱さは明らかだ。
ただ、民衆党の支持層である若者はネット中継で集会を見る人も多く、加えて「若者の貧困化」の当事者であるような層は平日の夜になかなか出てこられない。それらを考えれば、この日の参加者数のすくなさは納得できる部分もあるだろう。
現場で眺めていると、党首の柯文哲の演説中でもスマホを見続けている人が4割くらいいた。集会のネット中継に書き込みをおこなっているようだ。
外部の取材者としては、せっかく党首がリアルで目の前で演説しているんだから前を見ろよと思わなくもないが、こうした行動を含めて民衆党のコア支持者であり、党の個性なのだろう。意識の高い民進党と厳格な国民党という、既存政党が拾い上げられない人たちをカバーしている政党なのは間違いない。
「台湾有事」よりも現実的な危機
今回の立法院選挙で民進党が過半数を取れなかった場合、民衆党が議会のキャスティングボートを握ることは既に書いた。
これはつまり、ネット動画で暴言を連発する党首が作ったスタイリッシュな新党に集った、ゴッタ煮的でワキが甘いオポチュニストの議員たちが、現状に不満を持つ若者の熱狂的な支持のもとで政局をかきまわす可能性が、かなり高いことを意味している。
近年、日本の報道で流行の「台湾有事」は、専門家の間では直近の可能性は低いとみる見解が主流である。しかし、総統選後の台湾が迎える「未来」には、やはり深刻な危機が存在する。
台湾の危機の正体は、もっと現実的でショボくれたものだ。しかし、それゆえにどこの民主主義国家でも起こり得るような、とても危ない話なのである。
撮影 安田峰俊