歩を進めると、天高のあるドーム型空間に出た。ここでは《Flashing before our eyes》が展開されている。ドームの全面180度にわたり、きらめく都市の光景や堂々と泳ぐ金魚のアップなどの映像が、矢継ぎ早に登場しては消えていく。走馬灯のごとき映像を全身で浴びていると、我が身が空間へ取り込まれてしまいそうな感覚に陥る。
会場の動線に従って歩いていくと、さらなる異空間へと誘われる。《Intersecting Future 蝶の舞う景色》と名付けられた一帯には所狭しと花々が咲き誇り、花だけでできた深い森といった風情。
照明は朝昼夕を循環するよう調整されており、刻々と変化していく。人感センサーが設置され人が通るとふいに香りが漂うしかけも施されている。「ここが桃源郷……?」という言葉が頭に浮かぶ。
空間内での撮影が可能なので試しに撮ってみる、と「映える」どころの騒ぎではない。自分のスマホ画面に蜷川実花の作品が出現したかのよう。ここで撮影すれば、だれでも擬似・蜷川写真が撮れてしまうのだ。アーティストへの成り代わり体験、これはアートや展覧会の新しい楽しみ方かもしれない。
六本木では写真をじっくり堪能できる展示も
ほかにも展示は、5層の大型スクリーンからなる《胡蝶のめぐる季節 Seasons: Flight with Butterfly》をはじめ盛りだくさん。各所で写真を撮ったりしていると思いのほか滞在が長くなるので、時間の余裕を持って会場へ向かいたいところだ。
写真家として30年近いキャリアを持ち、無数の展覧会を開いてきた蜷川実花にとって、インスタレーションに振り切った今展は新境地と言っていい。これを実現するため彼女は今回、制作体制まで刷新して臨んだ。「EiM」と名付けたクリエイティブチームを組み、データサイエンティストの宮田裕章・慶應義塾大学教授とコンセプト策定したりと、各部門の専門家の知見・技術を結集したのである。それによりアートとして、またエンターテインメントとして、これだけ高い水準の「演し物」が実現されたのだ。