3つ目はチャンピオンの価値が下がってしまうこと。
例えば、ボクシングの主要団体はWBA、WBC、IBF、WBOの4つだけだが、それでも、数が多い、チャンピオンの価値が下がるという声がある。団体数が20を超えるキックボクシングの場合は、なおさらだ。試合の価値はそのまま観客動員数につながる。
団体数が多いことによって生じる3つの弊害によって、固定ファンが付きにくい状況を生み出している。それがファイトマネーの低さにつながっているのだ。
「稼げなくてもいい」
なぜ児嶋氏は、そんな薄給のキックボクシングでプロになろうと思ったのか。
キックボクシングと聞くと、K-1やRISE(ライズ)を思い浮かべる人も多いだろう。K-1は魔裟斗選手や武尊選手、RISEでは那須川天心選手をはじめとしたスター選手を輩出している。
「K-1やRISEに出られればファイトマネーは跳ね上がります。僕は出場したことがありませんが、聞いた話だとファイトマネーは10倍以上。トップ選手だと更に一桁変わってくるそうです」
児嶋氏は元々ダイエット目的で近所のジムに入会しただけなので、K-1やRISEへの出場はおろか、当初はプロになる気すらなかった。
しかし、初めてアマチュアの試合に出場したときに完敗して、悔しさのあまり強くなろうと決意する。そこから少しずつキックボクシングにハマっていったが、プロになってからもK-1やRISEへの出場を目指していたわけではなかった。
「ぼくはキックボクシングだけで生活したいとは思っていませんでした。というのも、リングに上がったときは、対戦相手と自分だけに観客の視線が向けられます。360度すべての方向から飛んでくる怒号のような歓声も、勝利したときに今までの苦しみが報われる感覚も、全てが非日常。『この感覚を味わえれば、これで稼げなくてもいいや』と思っていたのが正直なところです。同じように考えている選手は少なくないと思います」