放送を地域全体にあまねく届けることも地方局の大事な「地域力」だ。難視聴や電波障害があれば、地方局はそれに速やかに対応してきた。放送を途切れることなく送り届けること。テレビに当たり前のこととして求められている事柄だ。テレビは地域の絶対的なライフラインだからだ。それを守るための地方局の設備管理は徹底している。
有事に通信系メディアが回線遮断や輻輳(ふくそう)で不通になったとしてもテレビは途切れない。堅牢な設計思想に則った仕組みと管理によってテレビは有事情報をいち早く一斉同報する。その「地域力」は地域社会にとって最も頼りになるものだ。
そして、もう一点。地域の経済や文化に寄与する「地域力」もある。テレビ広告は、映像・音声、テレビ固有のリーチ(到達力)、浸透力によって確実に地域の購買意欲を惹起してくれる。それは地域経済の活性化に直結している。その力はまた、地域社会が直面する「人口減少」「過疎化」「少子高齢化」といった難問に対する解決のカギでもあると思う。
「ゆでガエル」の不安を一蹴する最大の方策
地域文化では、放送での紹介や支援はもちろんのことだが、放送という枠を超えたところでも地方局はその一端を担っている。地域にある「祭り」「イベント」「コンサート」「美術展」等々、地方局とそれらの関わりは深い。全国の地方局の多くが半世紀を超える歴史を持っており、彼らは「地域のエスタブリッシュメント」かつ「世話役」なのだ。
互助の精神が求められる地域社会にあって、彼らは重要な構成員として組み込まれている。地方局の協力なしでは立ちゆかない事業や活動も少なくない。「地域力」はそれに応える。
土着的な地域社会の真ん中に地方局はいる。そして、その「地域力」によって地域を支えている。このことを未来のテレビは重く見なければいけない。「再編」論は、テレビ全般を捉えた「マクロ視点」で語られることが多いが、実は地域から眺めた「ミクロ視点」も重要である。「未来へのビジョン」を考える時にそれは十分に留意したいと思う。
「ゆでガエル」の不安を一蹴する最大の方策は、実は、テレビマンたちがいま現在、真剣に向き合っている地域社会と、そこに資する「地域力」を今後どう磨いていくかを考え続けることではないか。別の言い方をすれば、それが出来る地方局こそがその地域エリアで確実に生き残り、放送事業を続けていけるのだと思う。