山森 僕のほうは専門家や道庁の担当者の話を聞いていたんですが、専門家の方も臼歯と肝臓と大腿骨を調べたら食性が分かると仰っていた。それを改めて有元に伝えたところ、「明日もう一回解体所に行こうかな」と言い出して。厳しい環境だろうから大丈夫なのか? と思って、プロデューサーもまじえて「どうしましょうか」とチャットで相談したんです。
有元 「こういう状態でたい肥の山からOSOの骨を掘り出せたら、何を食べていたかわかると思うんですけど、安全管理上行かないほうがいいですかね?」という聞き方をしたら、プロデューサーから「テリー伊藤なら掘ると思います」って不思議な返事が返ってきた(笑)。
山森 いい返しだな、と思いました(笑)。「行け」とも「行くな」とも言ってない。でも、背中を押してくれてる。
有元 僕も見事だな、とちょっと笑っちゃったんですけど。
スコップを跳ね返す「たい肥の山」
翌日、有元は釧路のホームセンター「ホーマック」が開くのを待って店内に飛び込むと、スコップ、防護服、マスク、ゴーグル、帽子、Tシャツなど一式買い揃えた。強烈な匂いなのでTシャツなどは作業後にそのまま捨てるつもりだった。
有元 その格好で解体所に行き、松野さんに「掘らせてください」と言ったら、「そんなので掘れるわけないじゃん」と大笑いされました。「どういうことですか?」と聞いたら、「やってみ」と。で、スコップで山を突き崩そうとしたら、表面がカチカチに固まっていて、まったく歯が立たないんですね。主にエゾシカの残滓や糞に、土や草が入り交じり、高温で発酵している状態でした。
すると松野さんが「じゃあ、ユンボ貸してあげるよ」と言ってくださったんですけど、当然僕は免許も持っていませんし、困っていたら、ロケ車のドライバーが「オレ、ユンボ動かせます」って。重機の免許を持っていたんです。それで彼がユンボでたい肥の山を持ち上げて散らばして、僕がスコップで選り分けることになったんです。
――たしかそのたい肥の山の中には、シカの骨もあったんですよね。
有元 大量にありました。
――クマの骨と見分けはつくんですか?
有元 これも偶然なんですが前日に来たときに、ちょうどクマが持ち込まれて解体されているところだったんで、社長さんが「ほれ、子グマでもこんなに太い」と見せてくれたんです。素人でもシカの骨とのサイズの違いは一目瞭然でした。
有元は無心でスコップでたい肥の固まりを崩して骨を探し続けた。マスクの中に熱気がこもり、汗がとめどなく流れ込む。たまらずマスクを外すと、今度は猛烈な臭気が襲ってくる。仕方なくまたマスクをつける――その繰り返しだった。その様子を最初は近くで撮影していたカメラマンもいつしか、遠くから「引いた絵」を撮るだけになっていた。
そうして4時間が経過した頃、何かを掘り当てた有元が「デカッ!」と叫んだ。