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結果、ほとんど不備や要望が伝えられることはなく、「さすが金間先生。優勝!」と、内心思っていた(自信過剰です)。ただそのあと、大学の事務局が全学生に向けてオンライン授業に対するアンケート調査を行ったところ、ちゃんと僕の授業に対しても(不備というほどではないものの)こうしてほしい、ああしてほしい、と書かれているではないか(自業自得です)。これはちょっとショックだった。

割と気楽に仕事をしている僕でさえショックを感じるのだ。企業にお勤めの上司や先輩の皆さんが、退職という事象を前にしたショックは計り知れない。

退職理由を素直に言うこと自体が高ストレス

「そう思うなら、普通に言ってくれればいいのに」ということが、普通に言えないのが今のいい子症候群の若者たちだ。退職の意向を面と向かって伝えること、それをイメージすること自体が、もはや高ストレス状態なのだ。

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仮に、強く引き留められるようなことはないとしても、必ず理由は聞かれるだろう。そのときに、なんて答えるべきかが極めて悩ましい。むろん、正直に答えることなどできない。

とはいえ、あからさまなウソもよくないだろう。相手に申し訳ないというよりは、後々こじれる可能性は排除しておきたい。ネットに、参考になるような例が載ってないか探してみよう。というか、「退職」と入力した段階で予測変換に「退職代行」が出てくるじゃないか。これにしよう。決定――。

こんな気持ちの流れの中に、上司や先輩に対する思いやりが入る余地はないのだろうか。

金間 大介(かなま・だいすけ)
金沢大学融合研究域融合科学系 教授
北海道札幌市生まれ。横浜国立大学大学院工学研究科物理情報工学専攻(博士)、バージニア工科大学大学院、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、文部科学省科学技術・学術政策研究所、北海道情報大学経営情報学部准教授、 東京農業大学国際食料情報学部准教授、金沢大学人間社会研究域経済学経営学系准教授、2021年より現職。また「イノベーションのためのモチベーション」研究も遂行しており、教育や人材育成の業界との連携も多数。主な著書に『イノベーションの動機づけ――アントレプレナーシップとチャレンジ精神の源』(丸善出版)、『イノベーション&マーケティングの経済学』(共著、中央経済社)、『先生、どうか皆の前でほめないで下さい いい子症候群の若者たち』(東洋経済新報社)。『静かに退職する若者たち』(PHP)などがある。