冒頭シーンでは、ゴミ集積場から子どもたちがまるで植物のように、にょきにょきと立ち上がっていきます。でも悲しいことに、植物のように大地から生まれてきた子どもたちは、次の瞬間には亡霊のような影になってしまう。私は、こうした子どもたちの環境を撮りたいと思ったのです。
重要だったのは、撮影をするうえでどう安全性を確保できるか
――映画をつくるうえで、そこで暮らす人たちへの取材も長期間行われたのでしょうか?
ローラ・バウマイスター 3年近くの時間をかけて取材や調査を行いました。ここにはどのようなコミュニティがあり、それがどう機能しているのか。何より重要だったのは、撮影をするうえでどう安全性を確保できるか、ということでした。はじめはどうすれば撮影隊がこの場所に入っていけるのかわからず不安もありましたが、時間をかけて調査を行ううち、徐々に住人たちと関係を築くことができた。そうして誰がこのコミュニティのリーダーなのか、どうやってここに暮らす子どもたちとコンタクトをとるのか、実際の場所を利用して美術部はどのように仕事ができるかなど、撮影にあたってのさまざまな問題を解決していきました。
――怒りや混乱を全身で表現するマリア役のアラ・アレハンドラ・メダルさんが素晴らしかったですが、キャスティングはどのように行ったのでしょうか?
ローラ・バウマイスター マリア役には、実は当初別の女の子をキャスティングしていました。彼女はダンススクールで見つけたのですが、パンデミックで映画の撮影が中断した間にかなり成長してしまい、役には合わなくなってしまったのです。そこで再びキャスティングをして、300人近くの中からアラ・アレハンドラ・メダルを新たに発見しました。彼女の顔の力強さに惹かれたのですが、カメラテストをしてみたら想像以上に素晴らしかった。ただ、演技はまったくの未経験でしたから、メキシコから呼んだ演技トレーナーによって1年近く演技レッスンを行い、撮影に臨んでもらいました。