独裁政権や内戦の影響で市民の多くが貧困に苦しむ中米のニカラグア。巨大なゴミ集積場の近くで暮らす11歳のマリアと母リリベスは、ゴミの山から拾い集めたものを売ることでどうにか生計を立てていた。だが政府がゴミ収集事業を民営化したことで生活は逼迫。リリベスは知人に娘を預け金策のため街へ出るが、残されたマリアは混乱するばかり。怒りを募らせたマリアは、いつまで経っても戻らない母を探しに、ひとり旅に出る。
過酷な現実に翻弄される少女の成長を描いた『マリア 怒りの娘』を監督したのは、ニカラグア出身のローラ・バウマイスター。映画製作自体が非常に困難で、これまでに国内でつくられた長編映画はわずか数本だというニカラグアで、本作はどのように生まれたのか。ニカラグアの映画事情とともに、製作までの経緯について話をうかがった。
こうした子どもたちの環境を撮りたいと思った
――まずはすばらしい冒頭シーンについてうかがわせてください。冒頭、湖の畔にある巨大なゴミ集積場が映り、そこに一台の車が入ってくるとゴミを投げ捨て去っていく。するとゴミの山から、黒いいくつもの影がゆっくりと立ち上がってきます。見ていくうちに、それらはゴミを漁りにきた子どもたちの姿だとわかるわけですが、立ち上がる黒い影はまるで亡霊のようで、その異様な美しさに心を打たれました。なぜあのようなシーンから映画を始めたのでしょうか。
ローラ・バウマイスター あそこは、ラ・チュレカというニカラグア最大のゴミ集積場です。近くには3000人ほどの家族が住んでいて、スペインが設立したリサイクル施設で働く人たちもいれば、マリアたちのように廃棄物を集めそれをお金に換える人たちもいます。初めてラ・チュレカを目にした時、私は心の痛みを感じると同時に、この場所が一種のエコシステムとして機能していることに感動しました。廃棄物から新たにものを作り出すのは、人間にしかできない創作行為ですから。