母親のリリベス役を演じたバージニア・セビリアは、演劇の活動をしている俳優さんです。彼女とはオーディションで出会い、その後1年間、役作りを一緒に進めていきました。ゴミ集積場のコミュニティと接することで、リリベスのようなゴミ収集人はどういう日々を送っているのかを知ってもらいました。また最後の場面のために、実際の猫の動きを研究し練習してもらったりもしましたね。
本来結びつかないものたちが出会い、重なりあう
――この映画では、正反対ともいえる二つの要素が複雑に混じりあっているように感じました。登場人物たちの生活がとてもリアルに描かれるけれど、一方でまるで夢のような不思議な出来事が起こったり、現実と幻想が同時に存在していますよね。
ローラ・バウマイスター おっしゃるように、正反対なものの関係に関心があるんです。暴力と優しさ。ファンタジーとリアリティ。集団と孤立。放棄と団結。本来結びつかないものたちが出会い、重なりあう。それが、この映画で目指したことです。
――善と悪も複雑に絡み合いますよね。マリアとリリベスの親子関係についても、はたしてリリベスは良い母親なのか悪い母親なのか、判断は難しいともいえます。
ローラ・バウマイスター 両極端なものを同時に描くという点では、善と悪の関係についても同様です。リリベスは暴力的でひどい母親といえるけれど、娘に対して優しい一面もある。リサイクル施設を営む人たちも、児童労働をさせ子どもを搾取している一方で、孤児たちに住処を与えている。善と悪は必ずしも明確に分けられない。私はすべての人物を、複雑さや曖昧さを持った人として描きたかった。
マリアとリリベスとの関係は、私と両親との関係に根ざしている部分があります。両親は放任主義のところがあり、幼い頃はずいぶん孤独な思いをしました。けれどその経験のおかげで、自分で物事を考えたり世界を見る力がついたし、その点では彼らに大きな恩を感じています。どんな関係も、これは良い関係だ、悪い関係だ、などと簡単に言い切ることはできないのです。