ニカラグア映画というものはほぼ存在しない
――ニカラグアの映画事情についてもうかがわせてください。この映画はニカラグアで製作された長編映画としては5本目、同国出身の女性監督の長編作としては初めてとなるそうですが、本作は国内の観客からどのような反響を受けましたか?
ローラ・バウマイスター ニカラグア映画というものはほぼ存在しないと言っていいでしょう。映画機関もないし補助金もない。産業自体が成立していないのです。実はこの映画も、政権の検閲が厳しく、国内では公開されていません。ただ、ニカラグア移民が多く暮らすマイアミとコスタリカで上映した際には大勢が見にきてくれ、特に女性たちが「ここには私たちの物語がある」と言ってくれました。彼女たちの多くは、かつてリリベスと同じような体験をしていたのです。いまでは国に帰ることが難しくなった彼女たちは、私の映画を見て、「かつて慣れ親しんだ風景が懐かしかった」「久しぶりにニカラグアなまりのスペイン語を聞くことができて感動した」と口々に話してくれました。
――映画産業がゼロに等しいと言われるニカラグアで、監督自身はどのように映画に触れて育ったのでしょうか?
ローラ・バウマイスター 私が子供だった80年代に見られたのは、テレビで放映される旧ソ連製のアニメーション映画だけ。当時の政権が社会主義を目指していたこともあり、アメリカ映画の代わりにソ連のアニメや映画が多数放映されていたんです(注:サンディニスタ民族解放戦線が1979年に臨時政府を樹立すると、政府は社会主義国のキューバやソ連と緊密な関係を築いたが、後に内戦に突入した)。それが私の映画と呼ばれるものとの最初の遭遇です。その後日本のアニメが放映され始め、なかでも『昆虫物語みなしごハッチ』は大好きでした。
街に映画館ができたのは90年代に入ってからで、初めて見たのは『ジュラシック・パーク』。やがてキューバの映画学校(ハバナ国際映画テレビ学校)に通い始めた兄が持ち帰るビデオによって、私の映画環境は大きく広がりました。それまで見ていたアニメや『ジュラシック・パーク』だけが映画ではない、世界にはこんなにも多様な映画があると知ることができたのです。
INFORMATION
『マリア 怒りの娘』
2月24日(土)、ユーロスペースほか全国順次公開
配給 ストロール