「セックスによって脳は鍛えられる」——「性欲」と「脳」についての驚くべき関係性が、世界中の科学者たちの研究で明らかになっているという。

   脳に関するありとあらゆる研究成果に目を通し、脳の健康にとって重要なことを一冊にまとめた『世界の最新メソッドを医学博士が一冊にまとめた 最強脳のつくり方大全』(ジェーズ・グッドウィン著、森嶋マリ訳)から「脳の健康を保つセックスの方法」「頭がよくなるセックスの方法」を紹介します。

古代ギリシャ時代、「性行為は健康によい」とされてきた

 人間にはさまざまな欲求があります。

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 金銭欲、名誉欲など、細かくいえばキリがありませんが、人が生きる上においての3大欲、というものがあります。

 食欲、睡眠欲、そして性欲です。

 食欲と睡眠欲は、生命維持のために欠かせない要素。

 そして性欲は、生命の種の保存と切りはなすことのできない、きわめて原初的な、強い衝動といっていいものでしょう。

 実は、古代ギリシャの医学書には「性行為は健康に良い」という記載がいくつも見受けられます。また、アテネの法律には、すべての女性が男性とカップルになることに異常にこだわった条文があるのですが、古典学者のコンスタンティノス・カパリスは『アリストファネス、ヒポクラテス、性に飢えた女たち』という論文に、こんなことを記しています(アリストファネスは古代ギリシャの大喜劇作家、ヒポクラテスは医学の父とも称される古代ギリシャの医師)。

「医学書、喜劇、アテネの法律は、心身の健康とバランスを保つために、女性には定期的な性行為が必要であるという点で一致している。アリストファネスが描いた女たちは、立派ではあったが性欲は強かった。それは女性の本来の姿で、男性のペニスは単なる快楽の道具ではなく(快楽も恥じることではないが)、健康な生活を送るために必要なものだった」

 脳の研究などまったく進んでいない時代であっても、すでにして「バランスのとれた性行為は健康と幸福、健全な精神のためにも男女ともに必要な行為だ」という認識があったのです。

©️AFLO

 一方で、野放図な性欲は社会の秩序を乱す原因となります。だから社会は時代時代でさまざまな規範をつくり、道徳観を醸成することで、性行動を制限してきました。中世以降のキリスト教会によってあらゆる欲望が禁じられ、聖職者は禁欲を余儀なくされ、性がタブー視されていったことは、みなさんもご承知のことでしょう。

 そして近代になると、さまざまな形で「性の解放」が起きていくのと並行して、性行為や性欲について、より科学的なアプローチがなされるようになりました。

 その過程で、性行為と心身の健康、脳との関係もすこしずつ明らかになってきたのです。

 肝心の脳機能との関わりは後述するとして、ここではまず性行為と健康全般の関係について、これまでの研究成果の中で注目すべき点を列挙してみます。

・男性の場合、射精回数が多いと前立腺がんにかかりにくい。

・男女ともに、定期的な性行為は、安静時の心拍数や血圧を下げ、心血管疾患を予防する。

・性交の頻度は代謝に多くのメリットがある。肥満防止、心拍反応の改善、男性ではテストステロン値の向上、女性では更年期の症状の緩和につながる。

 マスターベーションも含めた性行為が健康と長寿に役立つことが、すでに明らかになっているのです。