「所属する区」は建物のオーナーが選べる
もちろん、住所不明だからといって、こんな一等地を空き地にしておくはずもない。中央区と千代田区の境には銀座インズや銀座ファイブ、NISHIGINZA、中央区と港区の境界には銀座ナインなどのショッピングセンターが入っている。
住所がなければ、所属する区も未定なわけで、この土地にある店舗が、土地の管理や税金の支払いなどの行政上の手続きを、どうしているのか不思議である。
じつは、建物のオーナーが、いずれかの区を選び、住所登録を自己申告している。たとえば、銀座インズの場合、「銀座西二丁目二番地先」というように、「銀座西」という実際には存在しない地名を便宜的に利用している。
さらに、こうしたショッピングセンターの名称には、地名のブランド力の変遷もあらわれていておもしろい。
1958(昭和33)年に開業した銀座インズは、当時「有楽フードセンター」であり、「千代田区有楽町○番地」と名乗りを上げていた。フランク永井の「有楽町で逢いましょう」が大ヒットし、有楽町があこがれのデートスポットとして注目されたころのことである。銀座インズとなったのは、1990(平成2)年である。
銀座ナインについても、1961(昭和36)年に開業したときは、「SC新橋センター」という名の商店街だった。しかし1985(昭和60)年、銀座に新たに九丁目をつくるという意味をこめて「ナイン」に生まれ変わったのである。
それまで弱かった銀座という地名ブランドが、大きな意味を持ってきたことがわかるだろう。
大雨が降るたびに、渋谷の一帯が水浸しに…
渋谷もまた、高度成長期に大きく姿を変えた街のひとつである。
東京オリンピックに向けての準備が急がれた際、都内の各所で川をふたで覆い、その上を道路とする(暗渠(あんきょ))策が進められたが、渋谷もそんな工事が行なわれたエリアである。
ふさがれた川は渋谷川。新宿御苑や明治神宮の池の水などが流れ込み、宇田川などと合流して渋谷へと至る川である。地下に隠れてしまったため、あまり知られていないが、実際に今も存在する。暗渠となったあとも、渋谷駅の南側にある稲荷橋のところで再び姿をあらわし、恵比寿駅の方向へ流れている。