スポーツにおける劇的な名試合は時に、「まるで映画のようだった」と形容される。だとしたら逆に、「まるでスポーツを見ているようだった」というべき映画の傑作もあるのではないか。『劇場版ハイキュー‼︎ゴミ捨て場の決戦』を公開初日に見た余韻の中で、そんなことを考えていた。

劇場版『ハイキュー!! FINAL』公式Xアカウントより

原作に触れないまま情報を入れず、見に行った理由

 実を言えば映画館で『ハイキュー‼』の予告編を見るまで、筆者は原作漫画もTVアニメシリーズも見たことがなかった。バレーボールを題材にした人気少年マンガであることは知っていたし、2020年夏に少年ジャンプで8年半の連載が完結した時にSNSでトレンドになったのも目にしていた。だが、そうした情報だけでなんとなく「今はバレーボール漫画が人気なんだな」とわかったような気になり、作品を手に取ることはなかった。

 そうした「よくあるスポーツアニメ」の先入観が覆され、「この映画を見てみたい」と思わされたのは、予告編で描かれるバレーボールのアニメーションがあまりにも見事で美しかったからだ。人間がジャンプをする予備動作と筋肉の動き。空中で複雑に変化するバレーボールの軌道と弾き飛ばされるレシーブの腕のリアリティ。

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 2023年には同じく少年ジャンプから生まれた国民的バスケ漫画を原作者・井上雄彦が監督してアニメ化した『THE FIRST SLAM DUNK』が世界的にヒットしていたが、それは3DCGを井上雄彦の監修と加筆のもとに原作の絵に近づける最新の技術に支えられていた。『劇場版ハイキュー‼』は対照的に、明らかに手描きの美しい絵をベースにしながら、球技のリアルな物理法則を描写しており、これは日本のスポーツアニメとしてエポックになる作品ではないか、と感じさせる予告編だった。

 もちろん、漫画単行本45巻、テレビアニメシリーズ4期分におよぶ原作を見ないままで大丈夫か? という不安もあったが、あえてその情報を入れずに映画を見たらどういう感想になるのか、ということを自分自身で知りたい面もあった。逆に白紙の状態で見ることで、映画単体での評価がしやすくなるのではないか、この記事はそうした筆者による「初見観客の感想」になるので、原作からの読者から見た間違い、あるいは映画のネタバレがあることをご容赦願いたい。

リアリティと華やかさを両立させる監督の手腕

 期待と不安が半々の中で公開初日に見た『劇場版ハイキュー‼』は、予想をはるかに超える優れたスポーツ映画になっていた。日本アニメのポップな絵柄を活かしながら、それを正確なデッサンで動かすことで、スポーツの物理的リアリティを描くことに成功していると感じた。

 象徴的なシーンのひとつが「シンクロ攻撃」の描き方だろう。実際のバレーボールでも21世紀に入り広まった現実の戦術だが、実際にアタックする以上の人数がジャンプの助走に入ることによって相手ブロッカーを惑わせるフェイントだ。

 だがこれは現実の試合映像で見ると、素人目にはそれほどわかりやすく「シンクロ」には見えない。相手の動きに鋭敏な感覚を持つトップ選手同士の繊細な駆け引きなのだ。