東日本大震災が『ハイキュー‼』に与えた影響
映画鑑賞後に、コミックスや関連本を買い漁り、読み進めるうちに分かったことがある。実は原作コミック『ハイキュー‼』は2011年、あの3.11の震災の時期に連載の前身となる読切版の構想がスタートしているのだ。原作者のの古舘春一氏は、10周年の際に出版された『ハイキュー‼10thクロニクル』の中で、初代編集の本田佑行氏との座談会で仙台在住の新人時代を回顧する。
古舘:「それで、読切のプロットをやっている時に、東日本大震災があって」
本田:「すぐに古舘先生に電話したら、『パソコンだけは死守しました!』と。必死な声色で」
古舘:「パソコンを抱えるようにして守ってた。当時はマンションの12階に住んでいたので、余計に揺れが大きくて、テレビも壊れたし、本棚も全部倒れた」
(『ハイキュー‼10thクロニクル』)
『ハイキュー‼』の主人公、日向翔陽たちの烏野高校は、宮城県立の高校である。直接的に震災のモチーフが登場するわけではない。だが、あの東日本大震災のあとの仙台で、「震災直後だったから余震で線が揺れるし」(『ハイキュー‼10thクロニクル』)という状況下でバレーボール漫画を描き始めた作者の状況は、この作品の原点に大きな影響を与えたように思う。
「俺たちが負けたところで、勝ったところで、誰も死なないし、生き返らないし」
映画『ハイキュー‼』のクライマックスで、孤爪研磨は必死にボールを追いかけながらそう考える。それはもしかしたら、余震で揺れる机でペン入れをしながら、まだ漫画家として名をなす前の青年が何度も自問自答していた言葉だったのかもしれない。なぜバレーボールをするのか。被災地の中心でなぜバレーボール漫画を描きはじめ、描いてきたのか。その問いに対して映画で描かれる「もう一回がない試合」は、最後に美しい答を用意している。
軽視されがちだが…熱心な女性ファンダムが持つ力
最後に、1ヶ月で興収60億を越えさらに伸びる『劇場版ハイキュー‼』について触れなくてはならないのは、これまで作品を支えてきたファンダムの力だろう。
「ハイキューはありがたいことに、熱心な読者が多いから」
10周年の際に出版された『ハイキュー‼10thクロニクル』の座談会で、初代担当の本田佑行氏は作品を深く読み込むファンたちについて語っている。
「当時の連載がとにかく強かった。『ONE PIECE』はもちろん『NARUTO』や『BLEACH』もあって、これでどうやって票を取るの?」と本田氏が連載当初を回顧し、原作の古舘春一氏が苦笑している通り、当初から少年ジャンプの中でトップを取る人気だったわけではない。
古舘「でも、コミックスの5巻から10巻あたりの頃かな? あの頃は打ち切りの恐怖がものすごく強かったですね」
『ハイキュー‼ファイナルガイドブック排球極!』より
だが、壮大なスケールのヒット作が世に溢れる中、「ただ9×18メートルの四角の中で、ボールを落とさない事に必死になるだけ」(『ハイキュー‼』37巻)の小さな物語の中にある輝きと意味を発見し、人気を支えてきたのはファンたちである。
近年、『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』、『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』、そしてかつて満仲勧監督も参加した『劇場版名探偵コナン』と、長寿シリーズ最高記録を塗り替える日本アニメ映画のニュースが続く。その観客の高い割合を女性観客が占めることは、もう誰もが知る事実だ。