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 藤本の場合は22年度に第36期竜王戦で不戦敗による敗戦が1局ある。仮にここで勝っていたとすると、その次の対局はまだ22年度に行われていただろうが(不戦勝相手の神谷広志八段の次戦日程から推定)、それ以降の対局は23年度に記録されていた。仮に第36期竜王戦の挑戦者である伊藤匠七段との対戦まで勝ち上がったとすると、藤本の23年度成績には第36期竜王戦での3勝1敗が加わる。普通に考えれば好成績なのだが、藤本の場合はこれでも23年度の勝率は下がることになる。

 勝率記録に若手棋士の名前が上がりやすいのは(タイトルを保持あるいは現役A級で年度勝率8割以上を経験したのは羽生、藤井の他に渡辺明九段と永瀬拓矢九段しかいない)、まだ下のクラスだから相手関係が楽と推測できることもあるが、運が良ければ敗戦の記録を前年度に回せるということもあるといえそうだ。

2024年度、勝率記録更新のシナリオ

 仮に藤井が24年度に八冠プラス、自身が22年度に達成した一般棋戦完全制覇という正真正銘のパーフェクトをやった場合、まず勝ち星は45勝(タイトル戦28勝+一般棋戦17勝)となる。23年度よりも少なくなるが、挑戦権を勝ち取る過程での白星がなくなるから、これは致し方ない。

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 そうなると8つあるタイトル戦番勝負でわずか7敗以内に収めないと、中原の記録は更新できない。今年度のタイトル戦での負けが5しかないのだから、まるで実現不可能な数字とは言えないのが藤井の凄さであるのだが……。

 そして、藤本が今年度以上の勝率を挙げる可能性について考えてみると、前述した「年度またぎ」の棋戦が一つのカギになる。現在リーグ入りしている王位戦だ。残るリーグ3局が24年度に行われるとして、ここで3勝0敗ならプレーオフ及び挑戦者決定戦を経ての七番勝負進出の可能性は十分にある。しかし七番勝負で待ち構えているのは藤井だ。ここで4勝1敗、悪くとも4勝2敗で奪取しないと高勝率は維持できない。もちろん七番勝負で敗れれば勝率は大きく落ちる。

 また残るリーグ3局が2勝1敗だと陥落の可能性がある。この場合は次期の予選を4連勝して勝ち上がって再度のリーグ入りを果たし、リーグで2勝すると、24年度の王位戦トータルでは8勝1敗となり、高勝率を維持できる。

 もちろん棋士としてはタイトル戦に登場、奪取をすることに越したことはないのだが、単純な勝率だけを見ると、必ずしもそうではないのが数字の面白さだ。であるからこそ、繰り返すが、多くのタイトルを持ちかつ高勝率を維持していた藤井と羽生の凄さが際立つのである。