内臓脂肪を減らし、生活習慣病を予防しようという目的のもと、メタボリックシンドロームをターゲットとして行われる「特定健診」。同検診の基準値として最も重視されている項目は「腹囲」だ。「内臓脂肪」に着目した検査でありながら、ことさら腹囲が注視されるのはいったいなぜなのか。
ここでは、医師で作家の久坂部羊氏の著書『健康の分かれ道 死ねない時代に老いる』(角川新書)の一部を抜粋。メタボリックシンドロームの診断基準に対する疑問をつぶさに紹介する。(全2回の1回目/続きを読む)
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苦肉の策として代用された診断基準
メタボリックシンドロームは、内臓脂肪に着目した概念ですから、本来ならば内臓脂肪の量を診断基準にすべきです。内臓脂肪は直接計れませんから、心臓の周囲と腹部全体のCTスキャンを撮って、合計しなければなりませんが、時間と経費と被曝量を考えると、とてもそんなことはできません。いろいろ研究した結果、ヘソの高さの内臓脂肪が生活習慣病の悪化に相関することがわかりましたが、それでも健診でその部分のCTスキャンを撮るわけにもいかず、苦肉の策として代用されたのが、ヘソの高さの腹囲、すなわちウエスト周囲径となったのです。
ここで当然の疑問として、皮下脂肪の分厚い人と、そうでない人はどう見分けるのかという問題が出てきます。先にも述べた通り、皮下脂肪で腹囲が大きくなっても、生活習慣病にはあまり関係しないからです。
逆に、内臓脂肪が多くても、皮下脂肪が薄ければ、腹囲は基準内ということになって、メタボリックシンドローム(以下メタボ)が見落とされる可能性もあります。
さらに、だれが考えてもわかる疑問に、身長の要素が診断基準に含まれないのはなぜかということがあります。
背の高い人は当然、大柄になるので、背の低い人に比べて腹囲も大きくなるはずです。しかし、メタボ健診では一律なので、背の高い人には厳しい基準になっています。
なぜ、メタボ健診では身長の要素を無視するのかについては、いろいろ調べましたが、はっきりした理由は見当たりませんでした。身長を加味すると補正がむずかしいとか、診断基準が複雑になって、簡便性や効率性が損なわれるとかの理由があるようですが、今ひとつスッキリしません。腹囲だけでなく、腹囲と身長の比率を指標にすれば、身長の要素も簡単に加味できるはずです。私が聞いた噂では、パイオニアの研究者が、腹囲と内臓脂肪に関するデータを集めるとき、身長の要素を忘れたためということでした。