公衆衛生の改善、医療環境の充実、個人の健康意識の向上など、さまざまな要因で伸び続けている日本人の平均寿命。しかし、長生きをするために生活習慣に気をつけていても、90歳、100歳に近い超高齢になって健康体を保つのは難しい。また、かえって健康増進に努めてきた人ほど“ピンピンコロリ”で逝けないことも多いと、医師で作家の久坂部羊氏は指摘する。

 誰もが迎える老後、私たちはどこまで健康を意識して生きていくべきなのか。ここでは、久坂部氏の著書『健康の分かれ道 死ねない時代に老いる』(角川新書)の一部を抜粋。同氏が考える、理想的な老後の健康との向き合い方について紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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長寿時代のライフスタイル

 昨今の60代や70代は、昭和の時代と比べると、格段の若さと元気さを得ています。60代ならまだ現役で仕事を続けている人も多いでしょう。80代まで生きる人も増えて、今は長寿時代といえるでしょう。

 高齢になると時間に余裕ができ、経済的にゆとりのある人も少なくないと思われます。その上、元気もあり余っている。その自由で豊かな時間をどう使うべきか。

©west/イメージマート

 せっかくの時間を、病院通いに費やすのはもったいないです。痛みがあるとか苦しいとか、日常生活に差し障りがあるのなら、医療機関にかかるのも致し方ないですが、さほどでもないのに、不安と心配から病院と縁が切れない人も多いのではないでしょうか。その証拠に、病院に来ているほとんどの高齢者が、自分で歩けて、痛みや苦痛に顔をしかめているわけでもありません(待ち時間の長さにうんざりしている顔はよく見ますが)。

 だったら、人生の残り時間をわずかでも延ばすことに心を砕くより、有意義に使うことを考えたほうが賢明でしょう。

 若いときから仕事に打ち込み、趣味も持たず、家庭も顧みなかった人は、老後のこの恵まれた時間がうまく使えない危険があります。元気なのに、することがないのはつらいです。高齢になってから好きなことを見つけようとしても、簡単には見つかりません。配偶者との楽しい時間をと思っても、「急にそんなことを言われても」と、相手に断られるのがオチです。子どもや孫ともいきなり仲よくはなれません。

 ひとり暮らしの人とて、状況は同じです。時間とお金と体力があるとき、何をしてすごすかは、若いうちから考えておかなければならないということです。

 私事ながら、私の妻は55歳から趣味で写真をはじめ、68歳の今も続けていますが、写真クラブの先生は90歳をすぎているのに、撮影会では先頭を切って歩くそうです。妻はジムにも通っていますが、そこには80代の女性も何人かいるとのことです。私の友人の日本舞踊の師匠は、90歳を超えている自分の師匠の元気さにいつも感心しています。いずれも若いころからの修練と精進の賜でしょう。