「このような女子を教育することはできない」
〈記者 あらためて聞くが、煎じ詰めれば時事新報の企画が悪いということになる。その理由を拝聴したい。
部長 企画の良し悪しについてはいまは言いたくない。ただ、学習院女学部は、こういう企画に参加しても構わないような家庭の女子を教育することはできないとはいえる。ご存じの通り、当校は女子の知育徳育が主眼。容貌の美醜を気にする者は、とかく気が散って学業に身が入らず、従って他の生徒に悪い感化を及ぼすことがないともいえない。それは教育者の最も遺憾とするところだ。
記者 ヒロ子の罪は審査の結果、全国第1等になった点ではなく、こういう企画に参加したことのようだが。
部長 その通り。
記者 それでは聞きたい。本社の募集に応じて写真を提出した貴校生徒は末弘ヒロ子だけではない。他の生徒は放っておいて、1位に当選したヒロ子だけとがめるのはどうしてか。
部長 そのことはきのう初めて知った。処置は協議中だ。
記者 ヒロ子の写真は応募時と第1次審査当選時にも掲載されている。学校の主義・方針に違反しているなら、なぜ最初に掲載された時に注意しなかったのか。
部長 その点は当方の手落ちだ。申し訳ない〉
記者も痛いところを突いているが、学習院側の頑として動かない姿勢が印象的だ。
〈2.ヒロ子の厳父上京
ヒロ子の父・末弘直方氏は3月13日に上京。かねてから、この学期が終わり次第、ヒロ子を小倉に呼び戻そうと考えていたことから、退学そのものにはそれほど心を痛めていなかったが、このような事情で懲罰的な汚名を娘に被らせるのは遺憾と14日、乃木大将を訪ねて懇談した。
結局、いろいろな賞品を受け取らなければ在学させるという確答を得た。直方氏は時事新報に賞品を受け取らないか、受け取って慈善団体に寄付する方針を提示。時事新報は社内で協議し、問題はさまざまあるが、本人のために承諾することを伝えた。
これでめでたく落着と思ったが、あに図らんや、乃木大将はさらに不満があるとみえ、またも金鉄の一言を取り消し、ヒロ子の自主退学を要求してやまないという。びっくりして言葉がないとはこのことだ〉
このあたり、乃木大将(院長)の態度があやふやな印象が強い。