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連載春日太一の木曜邦画劇場

万博に沸く大阪で葬儀博覧会開催を進めるというブラックコメディ――春日太一の木曜邦画劇場

『とむらい師たち』

2024/04/09
note
1968年(89分)/KADOKAWA/3080円(税込)

 今回は『とむらい師たち』を取り上げる。前回と同じく、その座組を見るだけで期待感が上がる一本だ。

 なにせ、主演・勝新太郎―監督・三隅研次という『座頭市物語』を手掛けた二人に加え、原作が野坂昭如、脚本が藤本義一。アクの塊と言っていい面々が顔を揃えているのだ。

 物語の設定も、この面々にふさわしい濃厚なものになっている。一九七〇年の万博開催へ向かう大阪を舞台にしたブラックコメディである。

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 勝の演じる主人公は、火葬する前に死者の顔を石膏でかたどりデスマスクを作る職人・通称「ガンめん」。死者や遺族をそっちのけで人情よりも商売を求める葬儀の現状に怒りを抱くガンめんは仲間たちと「国際葬儀協会」を設立し、葬儀業界に殴り込む。

 死者のためを考えて一直線に突っ走る人情家の主人公像が勝にピッタリだが、脇役陣も強烈だ。中でも群を抜いているのが、伊藤雄之助だ。

 営業停止になった美容整形医師の役柄で、ガンめんに頼まれて死者に施術をしてその死に顔を生前に近い姿に復元させていく。抜群の腕を持ちながらも金に汚く、女好き。そんなミステリアスな知的さの裏に俗っぷりを秘めた人物を、伊藤は怪しさ満点で演じ切っている。低いトーンで奇妙な訛りの英語を駆使しつつブツブツと喋る――。その不気味な様が、猥雑な世界に強烈なアクセントを与えていた。

 この設定とキャラクターたちを手堅い人情喜劇でまとめれば、『男はつらいよ』的なロングシリーズとしても成り立ちそうな感もある。だが、本作はそうはいかない。むしろ正反対のアナーキー極まりない方向へと滑走していく。

 まず凄いのが、水子供養希望者を集めた「大合同慰霊祭」だ。ヘリコプターを使っての地蔵降臨や、グロテスクな水子たちの描かれた巨大絵画の除幕など、ド派手な内容。しかもそれを三隅監督が躍動感あふれる演出で切り取っているため、実に賑やかなのだ。

 そうした路線の成功を受け、仲間たちは葬儀をレジャー化しようとする。初心を取り戻したガンめんは反発。そしてたどり着いた企画が、また凄い。「万国博は生きてる人間のお祭や。死んだ者はどないなるんや」と「葬儀博覧会」の開催を思いつくのだ。協力者のない中、ガンめんは一人で「葬博」を進めていく。

 だがラストには、誰も想像できない残酷な結末が待ち受ける。それは、人類が迎えた突然のカタストロフだ。まさかの近未来SFで終幕する。

 無人の荒野に立ち尽くし、やがて奈落へ落ちるガンめん。その姿は、平和に溺れ死を軽んじる風潮への痛烈な警鐘として映し出されていた。

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