後日、高橋から聞いた話である。この時の生垣の心境は推測するしかないが、自身が勝っていても上がれないのならば、と踏ん切りをつけに来たのだろうか。
「12、3年在籍して、長くつらく苦しい思いばかりでした」
場所を将棋会館2階の研修室に移し、新四段2人に対するインタビューが始まった。
――昇段を決めた今の気持ちは?
山川「素直にうれしいという言葉以外出てこないです」
高橋「自分も、本当にうれしいです」
――奨励会を振り返っての感想をお願いします。
山川「14年ほどいて、いいことはそんなにありませんでした。苦しいことばかりの奨励会生活だったのが正直なところです。2級時代がすごく長くて後輩にも抜かされ、つらい時期でした。初段に上がってから1級に降級したこともあります。三段リーグも長く、何期目かは覚えていません。棋士では少し先輩の本田奎さん、斎藤明日斗さんの活躍を見て、刺激を受けました。今日、昇段出来てこれまでの苦しみがすべてなくなったような気がします」
高橋「12、3年在籍して、長くつらく苦しい思いばかりでした。でも、同門、同期、同い年の岡部怜央さんと切磋琢磨してきました。彼の方が昇段は早いですが、岡部さんがいないとどうなっていたかわかりません。リーグを戦っているときも声をかけてもらったので頑張れたと思います」
――今日の1局目を終えてからの気持ちはどのようなものでしたか。
山川「ひたすら無心であるようにと、今期のリーグ中はひたすら無心で将棋に向き合うというメンタルでいて、今日もそれが継続できたと思います」
高橋「対局の前日はいつも眠れないんです。昨日も1、2時間くらいでしたか。その結果、他のことを考える余裕がなくて、次の1局について考えるだけでしたね」
――山川さんは初の広瀬章人九段門下の棋士となります。
山川「師匠から最終日の前に『プレッシャーはあるだろうが、これが最後の壁で、ここを乗り切れないようでは棋士になっても苦しいだけ』と言われました。先ほど昇段の報告をしたら『おめでとう』と。電話越しなのでわかりませんが、師匠も笑顔だったのでしょうか」
「上の舞台で師弟対決ができるように研鑽を積んでいきたい」
――高橋さんは加瀬純一七段門下で、兄弟子には奨励会幹事の佐藤和俊七段がいます。
高橋「師匠や兄弟子からは、気を使ってもらったのか、あまり声をかけられませんでした。そのおかげでプレッシャーは感じなかったのかもしれません。先ほど師匠には『おめでとう』と言ってもらえました」
――尊敬、目標とする棋士はいますか。
山川「自分は幼いころから羽生将棋を見てきたこともあり、尊敬となると羽生先生です」
高橋「この1年間でお世話になった佐々木勇気さんです。目標というか、公式戦で戦いたいですね」