「中学校の夏休みには親が潜っているところに連れて行ってくれるようになりました。泳ぎを教えるのは子供同士、漁を教えるのは親です。卒業したら同じタライにつながって、アワビのいる岩場の場所や、アワビの起こし方(はがし方)を教えてくれました」
こうしてプロの海女としてデビューしていく。
定住海女と通い海女の違い
では、海士町の海女はどのような漁をしているのだろう。
4月になると、金沢まで車で往復し、沿岸で岩ガキ漁を行う。海士町には漁業権がない海区だが、働き盛りの海女が入漁料を払って潜るのである。
7~9月、いよいよ本番だ。サザエとアワビの漁が解禁され、舳倉島の周辺などで潜る。
10月の休漁月が明けると、ナマコや岩ノリの漁を行う人もいる。冬の日本海は荒れるため、潜れる日は少ない。
これらの漁のうち、最も海女らしいのはサザエ・アワビ漁だろう。
ただし、海に入るのは午前9時から4時間と決められている。資源を守りながら採るのが、海士町の伝統である。
漁の仕方は定住海女と通い海女で違う。
舳倉島に住む定住海女は、岸から歩いて海に入ったり、家族が操船する小船で出たりする。比較的高齢者が多く、浅いところや、潮の流れが緩やかな島の陰で潜る。
水揚げは島の漁協施設で計量し、午後3時に輪島へ向かう定期船に乗せる。
通い海女はハードだ。起きる時間からして違う。
奈津希さんは、中学を卒業すると島を離れて輪島側に住み、通い海女になった。どんな1日を過ごすのか見てみよう。
通い海女は「川」のような海に入ることも
漁の開始は定住海女と同じ午前9時から4時間。これに間に合うように舳倉島の周辺などへ向かわなければならない。午前4時半頃に起きて食事の支度をし、朝食をとる。午前6時に輪島港を出発。親類同士の海女が数人ずつで小型船に乗り合い、船頭は男が担う。
奈津希さんの夫・始さん(50)は、そうした船頭のうちの1人だ。日頃は底引き網漁船で操業しているが、7~9月だけは海女漁の船頭になるのである。海女漁に関係する漁業者で作る磯入(いそいり)組合の組合長も務めている。
輪島港を出た乗り合い船は、3時間もかけて舳倉島の周辺へ向かう。
到着すると、まずブイを浮かべて潮を見る。海の状況は事前に刺し網の漁船などからも知らされていて、これらの情報を総合して潜る場所を決める。そのような情報交換ができるのは海士町ならではの団結力と、集団で漁を行ってきた伝統があるからだろう。
通い海女は比較的若手や働き盛りの人が多いので「川」のような海にも入る。
だが、冒頭に述べたような「急流」だ。