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溺れても漁をやめてはいけない理由

 朝、「沖に出る」と考えただけで、食事がのどを通らなくなる。

「酔ったら吐くしかありません。米よりもパンの方が吐きやすいし、米だと吐く時にのどが痛くなるので、朝はパン食に変えました」と話す海女もいる。

 奈津希さんは「酔いが激しくなるのはシケの日です。うねりが出るから、海底でもやられてしまいます」と話す。そうした日が続くと、潜る前に日焼け止めクリームを塗る時、臭いをかいだだけでも気持ち悪くなっていた。

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「朝食がのどを通らなくなります。いい酔い止め薬がない頃には全て吐いてました。海女漁を始めた頃は食べられないし、食べても吐いてしまうので、やせこけていました。漁が終わると疲れ果ててしまい、陸に上がったら倒れるようにして眠っていました」と奈津希さんは話す。

 溺れる海女もいる。

 どれほど優秀な海女にも溺れる寸前まで陥った経験があるようだ。

「今日はやけに息が続く」「まだ底にいられる」という感覚になる時や、「いいのを見つけたから、もう一つ採ってから上がろう」と考える時に陥りやすいのだという。

「えっ」と気づいた時にはもう遅い。足がガクガクしてけいれんする。

 あと少しで海面という時に、頭が真っ白になって意識を失うのだ。そうした時に頼りになるのは同じタライにつながっている「相棒」だ。引っ張り上げてくれる。

 海女漁では獲物を入れるタライに実力が同じレベルの海女が2人ずつつながるが、交互に潜るパートナーであると同時に、命を預け合う仲間なのである。

海女漁。タライに花飾りがつけてある(舳倉島、2019年撮影)

 しかし、溺れたからと言って、そこで漁をやめてはいけない。すぐに潜らないとトラウマになり、潜れなくなってしまう。実際に深い岩場に潜れなくなった海女もいる。

存亡の危機に立たされた「最強の海女集団」

 サメにも遭遇する。

 イワシの群れを、マグロやブリが追い掛けて来る。これをサメが狙うのだ。

 そうした時には、音を出さずにじっとしておかなければならない。サメはグルグルと回っていても、やがて魚を追っていなくなる。

 奈津希さんは「魚の群れが来たらゾッとする」と漏らす。

 そうした経験を重ねながら、奈津希さんは輪島を代表する海女になっていった。

 これほどの技術は毎年必ず潜ってこそ向上し、維持されてきた。

 にもかかわらず、輪島港が隆起し、船が出せなくなった。舳倉島に通えないどころか、上陸すらできない。

舳倉島沖で操業する漁船(2019年撮影)

「このまま何年も潜れなかったら、高齢の海女から辞めていきかねません。早く港を再建しないと」。奈津希さんと始さんは口をそろえる。

「最強の海女集団」は存亡の危機に立たされているのである。