509列車を運転する機関士は「うたのおにいさん」が似合いそうな人だった
隣の部屋で、我々が添乗する下り509列車を運転する機関士・鈴木裕文さんにインタビューをさせてもらう。
地元市原市出身。元は自動車販売の仕事をしていたが、京葉臨海鉄道の機関士募集の広告を見て6年前に転職してきた。その物腰の柔らかさに、やさしい性格が滲み出ている。子ども番組で「うたのおにいさん」をやったら似合いそうだ。
「鉄道に関する知識はゼロでした。入社してから運転法規や運転理論などを勉強し、動力車操縦者試験を受けて合格。甲種内燃車運転免許を取得するまで半年ほどかかりました。その後もしばらくは先輩の運転する横に“見習い”として付いて勉強する時期があったので、機関士として独り立ちしたのは1年近く終わったころですね」
現在同社にはKD55形式が2両、KD60形式が4両、そして2021年に導入された最新型のDD200形式(愛称は「RED MARINE」)が1両の、3形式7両のディーゼル機関車が所属している。鈴木機関士はこのすべての機関車の運転資格を持っているが、一番好きなのはKD60形式だという。
「ブレーキの掛けやすさが自分には合っているんです。ただ好みは機関士によって違うようです。新しいDD200は、私はまだ操作が不慣れな部分がありますね」
以前JR貨物の運転士にインタビューした時もそうだったが、必ずしも最新式の機関車が運転する者から人気があるとは限らないようだ。誰でもそうだが一番重要なのは“慣れ”であり、まだ新参者のDD200はこれから時間をかけて京葉臨海鉄道の機関士たちの手に馴染んでいくことになるのだろう。
過去のJR貨物の取材では、「線路上に現れる動物に苦慮する」という話をしていた。そこで鈴木機関士に「動物の出現」について訊ねると、
「キジはよく見かけますが、動物はあまり見ません。ただ、先日なぜか野うさぎを見ました。初めての出来事でした」
と答えてくれた。そのうち山を越えてキョンもやって来るのかな……。
鈴木機関士は、家に帰れば4歳の男の子と2歳の女の子のパパ。
「以前、特大貨物である変圧器の輸送列車を運転する時に、上の子が見に来たことがあります。私が運転していることに気付いたようで喜んでいました。だからという訳ではないのですが、たまに沿線で小さなお子さんが手を振っていたりすると、短く警笛を鳴らしてあげたりしますね」
と表情を崩す鈴木機関士だが、安全への意識が頭から離れることはないという。
「鉄道業で最も重要なことは基本動作をしっかりすることだと思うので、確認を確実に行うように心がけています。誰も見ていないところで手を抜こうと思えばできるけれど、そこを敢えてきちんとやることが大事だと思っています」
鈴木機関士のこの心がけを、我々はこのあとの添乗でハッキリと目にすることになる。