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宗家継承にあたり、手続きなどはあるのでしょうか?

 前後して決議資料として届いたものは、マスコミが作成したテロップと同一のものでした。自分が学生の頃、公演を継続してドタキャンした方の代役を務めたことが何度もありました。その方は除名にはなっていないですから。何故除名にならないのでしょうかね…。結局、私の決議は、団体の自治権・裁量権で事実か否かは関係なく「世間を騒がせた」という理由で覆ることもありませんでしたのに。

 確かに今は、能楽協会の協会員ではありません。ただ、これをお話するとみなさんビックリされるのですが、姉で史上初の女性狂言師・和泉淳子と十世三宅藤九郎、そして直門弟子は協会員のままです。もともと能楽協会は、自分の祖父(人間国宝・九世三宅藤九郎)が中心となって作った団体でした。プロの認定団体ではありませんから協会員にならないと狂言ができないわけでもない。落語協会や漫才協会に入っていない方でも素晴らしい落語家さんもいらっしゃるし、M-1で優勝される漫才師の方もいらっしゃる。

 たとえば、能楽協会員だからと言って協会が平等に仕事を斡旋してくださる訳でもなく、協会主催の会に出演している人は一部だったり、会員でいるだけの為に年会費をおさめている方もたくさんいらっしゃると思います。

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©杉山秀樹/文藝春秋

――そもそも宗家になるにあたり、手続きなどがあるのでしょうか? 

和泉 和泉流ではこれまで、19回の宗家継承が行われてきたわけですが、協会や職分会が言うような手続きはありませんでした。でも、いかにも手続きがあると世の中の皆様には伝わっていますよね。父が健在だった頃、「嫡子嫡流であれば世襲でよい」ということを、能楽協会全体の共通認識として確認がされています。まして、和泉流では長らく世襲ないし先代宗家の指名で宗家継承がなされてきました。それらを前提として「世襲ではない新しい方法を考えませんか」という意見・相談提起は、あってもいいと思います。でもあたかも「多数決で宗家を決めるのが伝統」という間違った考えを世の中に流布され、それに従わない和泉元彌はどうなのかという空気が作られてしまって…。

 それで狂言の世界に詳しくない方には「世襲ではなく多数決で決めているのに、宗家を主張する和泉元彌に問題があるのでは」と思われてしまった。伝統を守るべき内輪から、自分たちの損得のために間違った認識を流布されたのは、「先祖に対して申し訳が立たない」と心底、悲しい気持ちになりました。天に委ねて命を繋ぎ、授かった命を大切に芸を伝承してきた先人の苦労を、たかだか100年足らずの人生の私利私欲のために無駄にしてしまうなんて…。