「被害が予想されるような場所に、なぜ観光客を呼び込むのか」
その後の2020年6月、町が「イカの駅つくモール」を建設して、指定管理で営業を始めた。2021年3月には、さらなる誘客のために、全長13mのスルメイカのモニュメント「イカキング」を造った。
川端さんは疑問に思った。
「なぜ、津波被害が予想されるような場所に、観光客を呼び込むのか」
「イカの駅つくモール」が建設された場所は、もとは川端家の土地だった。しかも、塩田として使われていた。
「塩田とされたのは、海抜が低く、潮が入りやすい地形だったからです。逆に言えば、津波が起きた時に最も被災しやすい土地でした」と指摘する。
そこから避難するとなると、近くの県道を上がった標高43mの地点が緊急避難場所に指定されている。なのに、避難路の案内看板さえなかった。
子どもの日だったらタダでは済まなかった
この県道には「イカの駅つくモール」から近道で登れる階段もあった。本来は農作業で地元住民が通るために県が整備したものらしいが、災害時には徒歩での避難路としても使える。しかし、草や雑木が生い茂って、歩けるような状態ではなかった。
川端さんは町の担当者に「草木を刈り払って通れるようにし、避難路として使えると案内看板を出してはどうか」と何度も提案した。メディアにも取り上げてほしいと連絡した。が、対応してもらえなかったという。
不安が「現実」になりかけたこともある。
2023年5月5日、隣の珠洲市で最大震度6強を計測する地震が発生した。奥能登地域では2020年12月から群発地震が起きており、同市で死者が1人出るほどの揺れだった。
能登町の震度は5強。津波は輪島市で10cm、珠洲市で4cmを観測したが、九十九湾への影響はなかった。
川端さんは「あの日は駐車場いっぱいにお客さんが来ていました。もし津波が来ていたら、どこに逃げていいか分からず、大混乱になっていたと思います」と語る。
「せめて人がたくさん来るゴールデンウイークを中心にして防災対策月間とし、備蓄を整備するとか、災害対策のキャンペーンを行うとかしてはどうか」と能登町の担当者に提案したが、これも実現しなかった。