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無事に筆記試験をパスしたが、口述試験は女子の合格例なし

受験直後には泣き崩れてしまったが、無事、筆記試験に合格した嘉子は二次の口述試験へと進む。筆記試験では判断のできない対応力や言葉の説得力が求められる。試験官と向きあって会話形式でおこなわれる試験は、引っ込み思案な者にはかなりのプレッシャーだ。

筆記試験に合格した者ならば簡単に解るような解答が、とっさに答えられずしどろもどろになったりする。失敗要因の大半はそれだろう。アクシデントに対して即応力を欠くところを露呈してしまった嘉子は大丈夫だろうか。

前年の試験で、当時は明大法学部に在学中だった田中正子が筆記試験に合格したのだが、この二次試験で不合格となり涙を飲んでいる。彼女も緊張で上手く答えられなかったのか? 『華やぐ女たち女性法曹のあけぼの』(佐賀千恵美/金壽堂出版)のなかで、筆者が田中本人にそのことについて質問したところ、

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「いいえ普通に答えられました。私は当然、受かると思っていました。不合格だったのでびっくりしました」

このように語っている。本人にとってはまさかの結果、落とされた理由がわからない。試験官たちも、初の女性受験者に戸惑いそれが採点に影響したのではないか? となれば、嘉子たち女性の受験者にとってこれはかなり不利になる。

コミュ力の高かった嘉子、口述試験は余裕だったが……

しかし、筆記試験の時と比べて嘉子には余裕があった。口述試験なら自分は上手くやれる。そんな自信があった。思い込みの激しさ、それが有利に働くこともあるのか。コミュニケーション能力に優れ、物おじしない性格がこういった試験には向いている。

口述試験では緊張することなく面接官と相対しても、戸惑(とまど)うことなくすらすらと受け答えすることができた。アクシデントには弱いが、勢いに乗った時には強い。上手くいったという手応えはある。悔いなく試験を終えることができた。しかし、試験場から帰ってきた彼女の顔色はなぜか冴えない。悲観し大泣きした筆記試験の時とは違って、その表情は少し怒気を帯びていた。