結局、この騒動はその後の実験を通じ、グルタミン酸ナトリウムと症状との関連は証明できないとの結論に達した。国連食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)によるFAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)は1970年代から数度にわたる審査を繰り返し、1987年には1日の摂取許容量を制限する必要がない安全な添加物であるとのお墨つきを与えている。
ただし念のため断っておくと、醬油をガブ飲みしたら体によくないのと同様、調味料として常識の範囲で使う分には問題ない、ということだ。
しかし、いったん広まった不信感が消えることはなかった。
業界は1985年(昭和60)に名称を「化学調味料」から「うま味調味料」に変えたものの、時すでに遅しだった。200万部を超えるベストセラーになった『買ってはいけない』(『週刊金曜日』編、金曜日、1999年)でもやり玉に挙げられ、論争はくすぶり続けた。
その影響はじわじわと市場に現れた。総務省「家計調査」(2人以上の非農林漁家世帯)を見ると、うま味調味料への年間の支出額は1968年(昭和43)の1345円をピークに減少の一途をたどっている。そして1999年(平成11)の261円を最後に、以降は「他の調味料」に吸収されてしまっている。
ならば、人々はうま味のきいた料理を手放したのだろうか。そうではない。代わりとなるものを手に入れたのだ。
うま味調味料の代わりに需要を伸ばした調味料とは?
うま味調味料の代わりに需要を伸ばしてきたのが、顆粒(かりゅう)だしやコンソメ、液体だし、めんつゆなどの調味料である。
なかでもめんつゆは、昭和30年代に相次いで醬油メーカーが参入した。1960年(昭和35)には年間2000キロリットルの販売量だったのが、1975年(昭和50)には2万キロリットルを突破し、10倍も伸びた(日刊経済通信社調べ)。
その後も市場は拡大を続け、1994年(平成6)に約11.4万キロリットルと10万リットルの大台に乗り、2007年には20万キロリットルを超える急成長を遂げてきた。ここ10年ほどは23万キロリットル前後で推移している。
今やめんつゆは、単にめん料理だけでなく、煮物や和(あ)えものにも使える万能調味料として、料理番組やレシピ本でも頻繁に取りあげられている。だが、これらの商品の原材料表示をよくみると、「調味料(アミノ酸等)」と書かれていることが多いのに気づく。