「よくぞ私を見つけてくれたという思いです。平栁敦子監督は女武者みたいな人で、会った途端にいきなり親友になった感じ。撮影中も『こんな風にしたら上司は嫌がるよね』などと、話し合いながら節子像に切り込みました。監督の求めることが、すべて私のツボにはまるんです(笑)」
映画『オー・ルーシー!』で寺島しのぶが熱演したのは、英会話教師との出会いをきっかけに自分を解放していく“痛い”40代独身OL節子。平栁監督は日本育ちだが、高校在学中に留学して以来アメリカ暮らし。ニューヨーク大学大学院在学中に制作した同名短編映画が高評価を受け、長編として再制作されたのが本作だ。寺島をはじめ、ジョシュ・ハートネット、役所広司、南果歩、忽那汐里など新人監督とは思えない錚々たる俳優陣を揃えた。
「日米合同企画じゃないと通らない映画だったと思います。最近は、情報過多の作品が多すぎる。もともと日本映画って小津作品のように、余白や余韻のあるものだったんですよね。映画を見た後、感想をコーヒー飲みながら5時間も語り合う。そういう丁寧じゃない映画があっていいと思うんですよ」
節子が恋する英会話教師を演じたのが、ジョシュ・ハートネット。ハリウッド超大作出演で世界的に著名なスターとなるが、昨今はインディペンデント作品にも多数出演している。
「ジョシュがハリウッドスターじゃなかったら、もうちょっとドロドロした映画になったかも(笑)。彼が演じた英会話教師をどう変えるか、平栁監督と作戦会議をしたのもいい思い出です」
超多忙な役所に、監督はダメもとでオファーした。
「役所さんの撮影日が、偶然1週間空いたとかで、共演が叶ったんです。役所さんの演技は素晴らしかった。最後に出てすべてをさらっていくような存在感。役所さんとは20年ぶりの共演で、『しのぶちゃんあの頃はピチピチしていたね』という言葉に、『私をそんな風に見てたの?』とつっこみました(笑)。役所さんが出ていなかったら、全然違う映画になったと思いますよ。役者としてすごい技術をお持ちですから」
新人監督のやる気が、日米合作、ロスでの撮影、名優の共演など様々な要素を実現させて、傑作となった。
寺島は、フランス人の夫との間に生まれた長男(5歳)の育児にも忙しい。この映画で招待されたカンヌ映画祭にも、アメリカで行われたインディペンデント・スピリット賞授賞式にも強行スケジュールで参加した。
「自分で決めたことだし、好きなことだけど、正直、余裕もないし、もうしっちゃかめっちゃかですよ! でもやるって決めたことだから、やらなきゃいけないんです」
てらじましのぶ/1972年、京都市生まれ。大学在学中の92年に文学座に入団。『赤目四十八瀧心中未遂』(2003)で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞受賞。『キャタピラー』(10)でベルリン国際映画祭銀熊賞受賞。18年は『ヘッダ・ガブラー』、『愛のゆくえ』と、舞台が続く。
INFORMATION
「オー・ルーシー!」
出演:寺島しのぶ、南果歩、忽那汐里、役所広司、ジョシュ・ハートネット
監督:平栁敦子
4月28日より、ユーロスペース、テアトル新宿他にてロードショー
http://oh-lucy.com/