過去に傷を持つ絵本作家の里谷千紗子(杏)が、長年絶縁状態だった父と記憶喪失の少年との3人で「家族」を育んでいく姿を描いた、映画『かくしごと』。認知症や児童虐待など、時代を映す社会課題にも切り込んだ本作への思いを、監督・脚本を手がけた関根光才さんに聞いた。

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認知症の知識があれば、祖父にもっと優しくできた

──『かくしごと』は、『生きてるだけで、愛。』(18年)に続く長編2作目です。本作で関根さんは脚本も手がけておられますが、この作品を選んだ経緯を教えてください。

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関根 プロデューサーの河野(美里)さんから、北國浩二さんの『噓』という原作をご紹介いただき、興味を持ったのがきっかけです。

 タイミングが合えばこの作品が1作目になっていたかもしれなかったのですが、個人的に強い関心を持っていた「認知症」「児童虐待」の2要素が入っていたので、映画化するなら絶対に脚本も自分で書きたいと思っているうちに、時間がかかったり、新型コロナのパンデミックがあったり。

©2024「かくしごと」製作委員会

 構想から公開まで6年もかかってしまいました。原作者の北國さんは、もう映画化の話はなくなったのかと思われていたようで(笑)。

──「認知症」「児童虐待」に興味を持たれたのは、やはり昨今の社会情勢を反映しているからでしょうか。

関根 どちらかというと、個人的な理由によるものです。老人介護や児童虐待といった社会問題だから扱いたかったというわけではありません。

 僕はじいちゃん子だったんですよ。でも、僕が中高生くらいの時に祖父が認知症になってしまって…。

 当時はまだ認知症への理解も知識もない時代だったので、原作を読んだ時に、もし当時の僕が、原作に書かれているような知識や情報を持っていれば、もっとじいちゃんに優しくできただろうし、理解してサポートしてあげられただろうな、という感情が湧いてきて、これを映画にしたいと思いました。

関根光才監督 ©細田忠/文藝春秋

 それと、児童虐待も昔からすごく気になっていたので、この2つのテーマを社会問題としてではなく、「里谷千紗子」というひとりの女性の物語として描いた原作にも強い魅力を感じ、向き合ってみたいと思いました。