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「杏さんに引き受けてもらえるかがカギでした」“認知症の父”と“記憶喪失の少年”と家族を育む主人公に監督が熱望した理由

映画『かくしごと』関根光才監督インタビュー

2024/06/05

source : 週刊文春CINEMA オンライン オリジナル

genre : エンタメ, 映画

note

 NHKの連続テレビ小説などにも出演経験のある役者さんなので、脚本をもらえないことに不安を抱いていたと思いますが、脚本を読んで固定のイメージを持たれてしまうと、経験豊富な子役は特に、そのイメージを上手に演技できるよう練習してしまうんですね。

関根光才監督 ©細田忠/文藝春秋

 そうなると、せっかくの自然なお芝居が台無しになってしまうので、彼には最後まで脚本を渡しませんでした。「脚本をもらえない」という不安な気持ちも演技に投影されて、とても自然な画が撮れたと思います。

「金継ぎ」のような映画になれば

──監督と俳優のみなさんの魂のこもったこの映画を、どのように観てほしいですか?

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関根 僕らの世代はスクラップ・アンド・ビルドみたいなことが建築でも文化でも、もてはやされていた時代でした。でも社会も環境も壊れかけてきたことで、これまでになかった視点が生まれてきたように感じています。

 例えば今は、古いものや壊れたものは捨てればいいではなく、金継ぎのように、傷を修復して傷自体も愛おしいものとして大切にしようという考え方が大事にされるようになってきました。

 この映画も金継ぎのように、辛かった経験や心の傷を抱える方にとって、その経験や自分自身をいつか大切に思えるきっかけになれば、と思っています。

せきね こうさい 1976年東京生まれ。上智大学卒業後、2005年に初監督の『RIGHT PLACE』でニューヨーク短編映画祭の最優秀外国映画賞などを受賞。国内外で多くの短編映画、CM、ミュージックビデオを監督し、2018年に初の長編映画監督・脚本作品『生きてるだけで、愛。』で新藤兼人賞・銀賞、フランス、キノタヨ映画祭・審査員賞などを受賞した。

『かくしごと』
STORY
絵本作家の千紗子は、長らく絶縁状態にあった父・孝蔵が認知症を発症したため、渋々田舎に戻る。他人のような父親との同居に辟易する日々を送っていたある日、事故で記憶を失ってしまった少年を助けた千紗子は、彼の身体に虐待の痕を見つけた。

 少年を守るため、千紗子は自分が母親だと嘘をつき、一緒に暮らし始める。次第に心を通わせる3人だが、その生活は長くは続かなかった――。

STAFF&CAST
監督・脚本:関根光才/出演:杏、中須翔真、佐津川愛美、安藤政信、奥田瑛二ほか/原作:北國浩二『噓』/2024年/日本/128分/配給:ハピネットファントム・スタジオ/6月7日公開

「杏さんに引き受けてもらえるかがカギでした」“認知症の父”と“記憶喪失の少年”と家族を育む主人公に監督が熱望した理由

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