累計200万部を突破した大人気和風ファンタジー「八咫烏シリーズ」。NHK総合で毎週土曜日に放送中のアニメ『烏は主を選ばない』の原作小説として、現在注目を浴びている。アニメの放送と原作小説のヒットを記念して、「八咫烏シリーズ」の第1作『烏に単は似合わない』(文春文庫)の解説を全文公開する。

烏に単は似合わない』(文春文庫)

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「大人」のイメージが強かった賞を、20歳で射止めた

 まず、読者のみなさんにお断りしておかなくてはならない。この小説は途中からあなたを思いもしない世界へ導いていく。タイトルと装丁から想像していた異世界ファンタジーは、ある時点でがらりと色と姿を変える。

 もし、あなたが花とゆめと豪華絢爛な世界で起こる美しくも悲しい物語を望んでいたら、読み終わった後に少々肩すかしを喰らったような気がするかもしれない。

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 反対に、ファンタジーなんぞに全く興味がないけれど、帯に書かれた謎解きに興味を持った硬派のミステリー好きなら、最後の1ページを読み終えた後、手を打って喜ぶだろう。

 そうなのだ。この物語ほど、最初に頭に描いた世界観と読み終わったときの印象が違う作品も少ないのではないか。

 そしてこの驚愕の小説を書き上げたのが弱冠20歳の女子大生であったことにもう一度驚いてもらいたい。すれっからしの本読みで、どんな本でも、もうあまり驚かなくなった書評家の私が一発でファンになってしまった作家、阿部智里のデビュー作である。

 本書は2012年の第19回松本清張賞受賞作である。偉大な小説家の名前を冠に頂いた文学新人賞の場合、その作家が名を馳せた分野の小説が受賞することが多い。当然、松本清張という名にふさわしい、ミステリーや歴史小説で受賞し、超人気作家になった人たちが勢ぞろいである。『半落ち』『64』の横山秀夫、時代小説の第一線を走る岩井三四二、葉室麟、梶よう子、『利休にたずねよ』で直木賞を受賞したが、惜しくも若くして亡くなった山本兼一など、大人の新人賞というイメージが強かった。

 だが阿部智里はなんと20歳でこの大きな賞を射止めた。勝因は彼女の持つスケール感の大きさであったと私は確信している。

「八咫烏シリーズ」の著者・阿部智里さん © 文藝春秋

華やかな「后選び」のはずが、物語の中盤で一転する

 舞台は八咫烏(やたがらす)が支配する世界。金烏(きんう)と呼ばれる宗家の長が支配している。宗家の下には宮烏で構成されている東西南北の四つの家があり、それぞれの役割が分担されている。人々は普段は人の姿をしているが、一朝、事が起こり何か飛び立つ必要性がある時は烏に姿を変えることができる。しかし貴族階級である宮烏では、鳥形(ちょうけい)となることははしたない事とされている。

 宮烏以外は山烏と称され、家来や下男、最下級になると鳥形のままで〝馬〟と呼ばれる荷役などを担う。