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柑橘類が壊血病の治療薬に

 ところが、その治療法はとても簡単だった。壊血病はビタミンCの不足、つまり食事に生野菜や果物が不足すると起こる。ビタミンCが欠乏すると、コラーゲンという繊維性タンパク質が生成されなくなるのだ。コラーゲンは、骨と組織を繋ぎ合わせ、気分に影響を及ぼすドーパミンその他のホルモンを合成するのに使われる(アンソンの乗組員たちは、精神疾患の原因になるナイアシン不足や夜盲症を引き起こすビタミンA不足など、他のビタミンの不足にも悩まされていたと見られる)。

 後に、海尉のソーマレズは、ある栄養素の効用を実感している。「はっきりわかった」とソーマレズは記している。「人間の体の仕組みには、地球上のある種の微細な要素の助けがないと再生できなかったり維持できなかったりする何とも言いがたい何か(ジュ・ヌ・セィ・クヮ)がある。わかりやすく言うと、大地は人間本来の要素であるのだから、野菜と果物が唯一の薬なのだ」

 バイロンたち乗組員はみな、壊血病と闘うのに柑橘類が必要だった。物資を補給するためにサンタ・カタリナ島〔ブラジル南海岸沖〕に寄港した際、島にはライムがふんだんに実っていた。すぐ手の届く所に治療薬があったのだ。この禁断ではない果実は、数十年後、英国船の乗組員全員に与えられるようになり、英国の船乗りはライミーとあだ名される仕儀となる。

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乗組員の半数近くを海葬

 艦隊の航行が続くにつれ、バイロンが目の当たりにする、空気を求めて苦しそうにあえぐ仲間の数は増えていった。水もないのに、まるで溺れているかのようだった。仲間たちは、家族からも先祖の墓からも遠く離れた場所で次から次に死んでいった。

 中には、立ち上がろうとする者もいたとウォルター牧師は報告している。だが、「甲板まで行き着けないうちに死んだ。あるいは、甲板を歩いていて、あるいは何かの務めを果たしていて、ふいにばったり倒れて死んでしまうことも珍しくなかった」。

 さらには、ハンモックに横たわったまま船内のある場所から別の場所に運ばれた者がふいに死ぬこともあった。「毎朝、各船で8人から10人の乗組員を葬るなど、そうあることではなかった」とミリチャンプは日誌に記している。

 全体で見ると、センチュリオン号の点呼簿に並ぶ乗組員約500人のうち300人近くが、最終的に「DD」、つまり「死亡除隊〔Discharged Dead〕」と記入された。グロスター号は、英国を出航した時に乗り組んでいたおよそ400人のうち4分の3が海に葬られたと報告しており、その中には強制徴募されて死んだ者も含まれていた。グロスター号の艦長は自身も重症で、航海日誌に「あまりに悲惨な光景で、中には言葉では言い表せないほどの苦悶のうちに死ぬ者もいた」と記している。セヴァーン号は、大人の男も少年も含め290人を葬り、トライアル号は乗組員の半数近くを葬った。

 ウェイジャー号では、バイロンによると、当初250人ほどいた士官たち乗組員は220人を下回り、その後200人にも満たなくなった。しかも、生きている者も死者とほとんど見分けがつかない有様だった。ある士官の言葉を借りれば、「ひどく弱っており、ずいぶん衰えてもいた」ので、「我々は甲板を歩くこともままならなかった」。

 この病は、乗組員の体の結合組織だけでなく船団としてのまとまりもむしばんでいた。以前は勇壮だった艦隊は今や幽霊船の集まりさながらで、元気なのは害獣ばかりだった。ある記述によると、「船内にはすさまじい数のネズミがいて、目にした者でなければ信じられないほどだった」。ネズミは寝場所にはびこり、食卓を横切り、海葬を待って甲板に横たえられている死者の顔を食い荒らした。

 ある遺体は目を、またある遺体は頬を食いちぎられた。

 来る日も来る日も、バイロンたち士官は「この世を去った」仲間の名を点呼簿に書き入れていった。