回収作業を進めるうちに船体はさらに崩壊
瓦礫の中から樽を幾つか発見すると、投げ縄を使って引き寄せ小型艇に移した。「ワインとブランデーの樽を幾つか見つけた」とバルクリーはうれしそうに記している。ある時には、艦長の収納部屋にたどり着き扉をこじ開けた。「ラムとワインの樽を幾つか取り出し、陸へと運んだ」とバルクリーは記している。
すると、チープはすぐさま要員を増やして回収を手伝わせた。「艦長の命令で毎日、難破船で作業をした。例外は、悪天候に阻まれた時だけだった」と士官候補生のキャンベルは書いている。3艘の小型艇はすべて駆り出された。難破船が完全に水没する前に、できるだけ多くの物を引き揚げなければならないことをチープは承知していた。
バルクリーたちは船体の奥へと、浸水した船室を目指してじりじりと進んだ。辺りは海水に浸かっており、フナクイムシが船体を食い進むように、重なり合った瓦礫をかき分け少しずつ進んでいった。
何時間かけても、価値のある物はほとんど見つからなかった。だがついに船倉の一角に入りこみ、エンドウ豆1樽、牛肉と豚肉数樽、オートミール1箱、ブランデーとワイン数樽を引き揚げることができた。さらに、帆布、大工道具、釘も回収した。キャンベルは「我々の置かれた状況においては、はかりしれないほど有用だ」と記している。他にも、蝋燭数箱、大量の布、靴下、靴、時計数個も手に入った。
そうこうするうちに船体はさらに崩壊し、バルクリーいわく「木っ端みじん」になってしまった。
おかげで、船の残骸は海上に切れ端と化した板が幾つか突き出ている状態になり、乗り込むのがさらに危険になったため、回収班は新たな作戦を考えた。長い木の棒に釣り針を付け、それを舷縁(ガンネル)越しに伸ばし、何でもいいから残った必需品を釣り上げることにした。
窃盗が起こらないよう、回収品は貯蔵テントに保管
陸上では、チープが自分の小屋の傍にテントを張り、食料すべてを保管していた。ウェイジャー号でもそうだったように、チープは陸の上でも士官や士官候補生の厳格な上下関係を頼みにし、自分の命令に従わせようとした。もっとも、絶えず反乱の恐れがある状況でチープが主に信頼していたのは内輪の者たち、いわば組織内の組織だった。そこには、海兵隊中尉のハミルトン、軍医のエリオット、主計長のハーヴィーが含まれた。
他にもチープはその貯蔵テントにすべての銃と弾薬も保管した。チープの許可なしには、誰一人立ち入りを許されなかった。チープ本人がつねに銃を携行していただけでなく、ハミルトン、エリオット、ハーヴィーにも銃の携行を許可していた。4人は銃を光らせながら、浜に戻ってきた小型艇を出迎え、すべての回収品を必ず貯蔵テントに運ばせ、主計長に記録させた。これで窃盗は起こらないはずだ。窃盗は、やはり海軍条例にある「汝、すべからず」の一つなのだから。
チープの見るところ、時折、バルクリーは規則や既定全般に腹を立てているようだった。月が出ている夜には、バルクリーは仲間とともに沈没船からの回収作業を続けたがったが、チープは横領されるのを恐れてそれを認めなかった。バルクリーは、チープとその側近について日誌にこう不満を漏らしている。「連中はくすね取られるのを恐れて、夜間に小型艇を出して作業させるのを渋った。……そのせいで、食料品その他の、遠からずどうしても必要になる有用な物を引き揚げる機会を何度も逃してしまった」