ある晩、30歳の船乗りは海から戻ってこなかった
リチャード・フィップスという名の30歳の船乗りは、大樽を割り、その木製の胴体の一部を使って即席の樽舟にし、そこに2本の丸太を縄で縛り付けた。フィップスは泳ぎは苦手だったものの、バイロンによると「その風変わりで独創的な舟に乗って冒険を求め」果敢に漕ぎ出した。フィップスは、チープの許可を得てショットガンを携え、鳥を見つける度に波間でできるかぎり動かないようにして息を殺し撃つのだった。何羽か仕留めた後、海岸沿いにさらに遠くへと進み、地図に新たな土地を描き加えた。
ある晩、フィップスは戻ってこなかった。翌日も戻ってこなかったので、バイロンをはじめとする遭難者たちは、また1人仲間を失ったと嘆いた。
だが翌日は別の船乗りがひるむことなく、自作の小舟に乗って狩りに向かった。岩だらけの小島に近づくと、大型の生き物が目に入った。じりじり近づいていき銃を構える。フィップスだった! 波にさらわれて樽舟が転覆したため、何とか岩によじ登り、そこで飢えと寒さに震えながら動かずにいたのだ。遭難者たちの中の遭難者だった。
野営地に連れ戻されると、フィップスはすぐさま前回よりも頑丈な新しい舟を作り始めた。今回は、ウェイジャー号で火薬をふるいにかけるのに使っていた牛皮を利用した。牛皮を数本の曲がった木製の棹に巻きつけ、手ごろなカヌーを作った。そして、またもや漕ぎ出した。
小舟で遠出をしている時にスコールに見舞われ…
バイロンも友人2人とともに、自分たちで危なっかしい小舟を設計した。平底で、1本の棹で漕いで進む。難破船からの引き揚げ作業がない時に、3人は遠出した。バイロンは、目にした海鳥の研究をした。その中には、短い翼と大きな足ヒレをもち、夜間、羽毛を繕う時にいびきのような音を立てるフナガモもいた。バイロンはこのフナガモを鳥類の競走馬と見なしている。理由は、「半ば飛び、半ば走っているような動きをし、水面を猛スピードで進む」からだ。
ある時、バイロンと友人2人は、小舟で遠出をしている時にスコールに見舞われる。3人は海面に突き出た岩の上に避難した。小舟を海面から引き揚げようとしたところ、手が滑ってしまう。バイロンはあまり泳ぎが得意ではなかったので、自分たちの命綱である小舟が流されていくのをただ見つめていた。ところが、3人の1人が海に飛び込み、小舟を取り戻す。騎士道的な行為はまだ健在だった。
こうした遠出で遭難者たちが捕まえた鳥の数はたかが知れているが、それでも捕まえた数羽は喜んで食べた。また、バイロンが驚嘆したことに、誇り高き彼ら海軍は、沿岸域のパトロールを怠らなかった。