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入院期間を短縮させた腹腔鏡手術

 消化器のがんは通常、粘膜(粘膜上皮)から発生して、徐々に粘膜下層、筋層へと深く潜り込みながら広がっていくと考えられている。もし内視鏡でがんが粘膜にとどまる早期の段階で発見できれば、転移のリスクが非常に低いので、胃を切除せずに内視鏡で治療することができる。胃を残すことができれば、後述する「ダンピング症候群」などの後遺症の心配がないので、メリットが大きい。

 かつて胃の内視鏡治療は、粘膜の下に生理食塩水を注入して腫瘍部分を隆起させ、ワイヤーの輪っかに引っかけて取る「内視鏡的粘膜切除術(EMR)」が主流だった。ただしEMRでは、大きさが2センチ程度までの腫瘍しか切除できない難点があった。

 これを克服するため、現在では内視鏡の先端から小さな電気メスを出し、粘膜をはぎ取る「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」という方法が普及している。これを用いれば、粘膜にとどまるがんなら、10センチを超えるような大きな腫瘍でもはぎ取ることができるようになった。胃の粘膜は再生が早いので、2、3週間も経てばふつうに食事ができるようになる。

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 ただし、ESDにも胃に穴を開けるなどの偶発症が起こりうる。したがって、ESDを受ける場合にも、経験豊富な内視鏡専門医(消化器内科や内視鏡診療部などの所属が一般的)のもと、外科のバックアップ態勢もある医療機関を選んだほうがいいだろう。

 早期がんで粘膜より深く潜り込んでいる場合や、進行がんでも周囲のリンパ節や臓器を切除すればがんをすべて取り切れると判断された場合は、手術の対象となる。手術には大きく分けて、従来のお腹を開ける「開腹手術」と「腹腔鏡手術」がある。胃がんへの腹腔鏡手術は、2000年頃から普及し始めた。日本外科学会等の調査によると、13年には胃切除術の4割を腹腔鏡手術が占めるまでになっている。

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 腹腔鏡手術のメリットは、1、2センチの小さな傷数ヵ所ですむだけでなく、胃がんの場合はなんといっても回復が早いということだ。開腹手術だと入院期間が2、3週間かかるのが一般的だが、腹腔鏡手術だと10日程度で退院できることが多い。

 とくに、心臓や肺に持病を抱える高齢者が増えており、こうした患者には体の負担が少ない腹腔鏡が合っていると言われている。また、腹腔鏡はカメラで術野を拡大視できるので、細かな血管や神経までよく見ることができ、「開腹手術より精密な手術ができる」とメリットを強調する外科医が多い。

 しかし反対に、腹腔鏡手術だと手術器具の動きが制限されるため、自由に手を動かせる開腹手術のような丁寧で細かな操作ができにくいとする意見もある。さらに、開腹手術であっても、できるだけ小さな傷で手術する工夫がされており、回復のスピードは腹腔鏡手術と大きく変わらないと主張する外科医もいる。