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注意したい「ダンピング症候群」

 いずれにせよ、手術方法にはそれぞれメリットとデメリットがある。その医師が慣れている方法で、安全、確実な手術をしてもらうのがベストだ。とくに腹腔鏡手術は特有の技術を習得する必要がある。執刀医の手術経験数を教えてもらうとともに、最低限、日本内視鏡外科学会の技術認定医(胃がんは消化器・一般外科領域)の資格を取得しているか確認したほうがいい。

 また、日本胃癌学会の「胃癌治療ガイドライン」(2014年5月改訂)では、早期胃がん(ステージⅠ)に対する幽門側胃切除術(部分切除)に対してのみ、腹腔鏡手術が「日常診療の選択肢となりうる」とされている。つまり胃全摘や進行がんには、腹腔鏡手術の適用は慎重にすべきというのが学会の見解だ。胃全摘や進行がんにも腹腔鏡手術を安全に施行している外科医もいるが、技術格差が大きいということも知っておいてほしい。

 胃を切除する場合、もう一つ考慮しなければならないのが「ダンピング症候群」と呼ばれる後遺症が起こりうること。これは食後に腹痛や吐き気、冷や汗、めまいといった症状が起こる現象で、胃がなくなったために食べ物が一気に腸に流れ込んでしまうのが原因だ。

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 これを予防するため、胃の出口(幽門)の機能を残す「幽門輪温存胃切除術」という方法がとられるようになった。また、胃を切り取る範囲を必要最小限にとどめる「部分切除(縮小手術)」も行われている。これらの手術も根治性を担保しながら、質の高い手術を受けるには一定の技術が必要だ。したがって、経験値の豊富な執刀医の手術を受けるのがいいだろう。

 かつて、胃がんは生存率を上げようと、積極的に広範囲に切除する手術(拡大手術)が行われてきた。しかし、遠くのリンパ節や臓器(脾臓、膵臓、十二指腸や大腸など)を根こそぎ切除しても成績は向上せず、そればかりか患者が死亡するリスクも小さくなかった。そのため現在では、手術の傷を小さくして、胃の機能を残す方向に進んでいる。

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 とはいえ現在でも、進行胃がんに対して、拡大手術が実施されることがある。また、近年では進行胃がんでも、術前化学療法(抗がん剤治療)を実施することで、腫瘍が縮小して手術ができるようになったケースが報告されている。したがって進行胃がんの場合はとくに、抗がん剤の専門家(腫瘍内科医)と連携して治療できる態勢のある病院を受診したほうがいいだろう。

 胃がんは消化器がんの手術の中では比較的難易度が高くないので、日本中の病院で手術が行われている。しかし、これまで述べたとおり、内視鏡治療や腹腔鏡手術には技術格差があり、的確な術前化学療法が実施できる病院も限られている。だからこそ、胃がんだからと甘く見ず、執刀医や病院を慎重に選んでほしい。

出典:文春ムック「有力医師が推薦する がん手術の名医107人」(2016年8月18日発売)