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 チームメイトとしてともに戦った中嶋氏は、初めてのコースではセナからポイントや注意点を教わったという。セナの人柄についても「すごく気さくでいいヤツだった」と回想する。

中嶋氏 ©文藝春秋

中嶋 モナコGPの時に僕の手の皮が捲れてしまったことがあって、その時もパッドと包帯を持って来てくれたの。

 古舘 えー! 優しい!

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 中嶋 しかも自ら、包帯を巻いてくれたんだよね。僕の手をとって。巻きが弱くてすぐ外れちゃったけどさ(笑)。

 古舘 それを聞いて思い出したんですが、89年か90年、モナコで本戦前日にフジテレビのスタッフとレストランに行ったら、奥の方の席にセナと当時の恋人がいたんですよ。二人で見つめ合いながら食事をしていたんですが、ふいにセナが女性の前にあるバゲットを取った。「え、奪って食べちゃうのかな」と思っていたら、セナがバゲットに丁寧に丁寧にバターを塗って、女性に差し出したんですよ。女性はにこっと笑いながら食べていて、なんて優しい人なんだって、見ているこっちが恥ずかしくなったんですよ。

 きっと中嶋さんに包帯を巻いている時も、丁寧に巻いていたんだろうなあ。

 中嶋 ははは(笑)〉

セナ足、俺は認めないね

 話題はセナの超人的なドライビングテクニックにも及んだ。

アイルトン・セナ ©Sipa USA 時事通信フォト

古舘 テクニックでいうと、「セナ足」は有名ですね。アクセルを1秒間に6回踏むテクニックで、コーナリング中のエンジンの回転数を落とさずキープできるので、スピードを保てるというもの。

 木内 当時は、レースのコンディションをシミュレートできる技術が向上している時期でもありました。「これぐらいのタイムを出せる」という計算を出すのですが、これはタイヤが最適ラインを走っていることを前提に出した数字です。ところがセナが走ると、必ずそのタイムを超えてくるんです。「セナ足」でちょっとずつスリップさせながら走るから、やっぱり速いんですよ。

 中嶋 セナ足、俺は認めないね(笑)。

 古舘 えー! そうなんですか? どうしてでしょう。

 中嶋 結果としては速いのかもしれないけど、車本来の動きは壊してるわけで、必ずしもやらなくてもいいことじゃない?