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 文春オンラインにも抜粋された『中森明菜 消えた歌姫』(西﨑伸彦)によれば、事態を収拾するためにこの会見を設定したのは、近藤真彦が所属するジャニーズ事務所の副社長(当時)、メリー喜多川氏だったという。

 仕事については「いいことばかりではありません」とうつむいたが、心の底から信用できるスタッフと一緒なら「耐えていけるんじゃないのかな」と発言し、唇を震わせて涙ぐみ、鼻をすすった。

 震える唇は、彼女が大きな問題を抱えて、苦しんでいたことを印象づける。辛かった過去が思い出されたようにも見えた。

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 交際相手の近藤さんについては、涙ぐんだ表情で、消え入りそうな声で「私なんかよりもっともっと辛い苦しみを与えてしまったと思います。そのお詫びと心からありがとうを贈らせて下さい」と言及した。

公式YouTubeより

 中森さんが復帰できる状態には見えないものの、自殺未遂騒動から半年後に初めてメディアの前に姿を現したことを考えれば、ここまではまだ記者会見の範疇にあった。

 しかしこの会見が今でも語り継がれているのは、なにも金屏風のせいではない。当の近藤さんが登場したからだ。中森さんは立ち上がって彼を迎え、近藤は笑顔を見せた。だが彼は周囲の報道陣に対して注意を払い、中森さんよりも周りに視線を送りながら登場した。

近藤「まず一番初めに喜ばなければならないのは…」

 涙で顔を歪めてうつむく中森さんの横で近藤さんが話し始めた言葉も異様だった。

近藤真彦と中森明菜 ©文藝春秋

「まず一番初めに喜ばなければならないのは、彼女がこうして皆さんの前に出られたということだと思います」

 自らの家で交際相手が自殺未遂を起こしたことには一切触れず、「喜び」というあまりに場違いな言葉に驚かざるをえない。

 続けて「明菜ちゃんが復帰するレールを敷くお手伝いが少しでもできたという喜びを感じている」と発言したが、その表情は中森とは対照的に元気で明るい。

 しかしその瞬間、中森さんは右の下唇を噛むような仕草を見せた。これは強いマイナスの感情に心が揺さぶられたように見える。しかし近藤さんはそんな中森さんに気づくこともなく、翌年に自分が芸能生活10周年を迎えることをアピールした。