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そのたびに妻はタケノコを提案し、急場をしのごうとしたが、山口判事は“人をさばく裁判官の身で、どうしてヤミができるか、給料でやっていけ”と家人をしかりつけ配給だけの生活を命じた。こうして夫婦はほとんど毎日しるばかりすするほかなく、配給ものは全部二児にあてがっていたが、これを見かねた岳父、元大審院判事弁護士、神垣秀六はじめ在京の縁者たちが郷里から食糧を贈ったが、裁判官はそんな違反はしてはならぬとしりぞけ、経済係判事として全く身を清潔に保ち、激増する経済事犯を一人で百件から持って審理に敢闘していた。

本年三月頃極度の栄養失調におちいり“このままでは死んでしまいます”という妻の訴えもガンとして聞かなかった。岳父神垣氏は食糧をとどけても受取らないので、一週に一、二度ずつ山口一家をよんで食事することにしたが、そんな計画的なことはごめんだ、とそれさえもことわり、栄養失調はいよいよひどくなって、微熱が出るようになった。妻は医者の診断を受けるようすすめたが、“オレが今病気だと休んだら、受け持っている百人からの被告人はいつまでも否決のままでいなければならない”と聞かず、この状態で約半年。ついに去る八月二十七日、東京地裁で倒れた。

※一部、個人名・住所を省略

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「このままでは死んでしまいます」という妻の訴えも無視

朝日新聞の記事の続きには、山口判事が倒れた後(地裁で倒れたというのは事実ではないとする見解もある)、絶対安静となって休職し、病床に着いてからも、ヤミの食料は受け入れなかったこと。妻が「判事なんて(※職業は)、ほんとうらめしい」と泣いたことなどが書かれている。

このニュースは、判事の殉職に近い死というショッキングな事件として日本中に衝撃を与えた。今風に言えば「自分に厳しすぎる裁判官がコンプライアンスを遵守して餓死した」ということになるだろうか。「虎に翼」では、花岡が「人としての正しさと司法の正しさがここまで乖離していくとは思いもしませんでした。でも、これが俺たちの仕事ですもんね」と語っていた。