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(※父親の山口判事は)とうとう一個の法律と一方的に心中してしまった自己陶酔型の利己主義者。
あの破滅的な飢餓のさなかで、一家の柱と頼む父に死なれてしまった。五歳と三歳の子を抱え、母はどうやって生き延びることができるだろう。父の実家から母の実家へ移り、そこで育ててもらわなければならなかったではないか。
死んでしまうことよりも、生きることの方が遙かに難かったといえる。「山口、お前のお父さんは偉い人だった。それなのに、なんだお前は」といわれもしたが、ではその父は、母と幼児を遺棄し、一体、どんな立派な義務を尽したということができるのか。
(山形道文『われ判事の職にあり』文藝春秋)

村瀬 まりも(むらせ・まりも)
ライター
1995年、出版社に入社し、アイドル誌の編集部などで働く。フリーランスになってからも別名で芸能人のインタビューを多数手がけ、アイドル・俳優の写真集なども担当している。「リアルサウンド映画部」などに寄稿。