日本人で最も多いがんの1つが「大腸がん」だ。患者数が多いだけに、たくさんの病院で手術が行われているが、直腸がんや進行がんでは成績の施設間格差が大きい。いい手術を受けるには、人工肛門の選択や、自律神経温存などのポイントも知っておく必要がある。

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 大腸がんは、日本で最も患者数の多いがんだ。国立がん研究センターによると、2016年の罹患者数は14万7200人と予測されている。死亡者数も肺がんに次いで多く、5万1600人にのぼる。しかも、罹患者数、死亡者数とも右肩上がりに増えており、女性では罹患者数が第2位、死亡者数は第1位だ。

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 大腸がんが増えた理由は、日本人が肉を多く食べるようになったことが要因の一つとして考えられる。2015年にWHO(世界保健機関)が、牛や豚などの赤肉やハム、ソーセージなどの加工肉の摂取量が多いほど、大腸がんリスクが上がると発表して、世界的に大きな話題となった。日本の大規模な住民追跡調査(多目的コホート研究)でも、赤肉の摂取量が少ない人に比べ、最も摂取量が多い人は、約1.5倍大腸がんリスクが高いという結果が出ている。

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 ただし、日本人は欧米人に比べて、大腸がんリスクが大きく上がるほどの肉を食べている人は少ない。また、昔は極端にたんぱく質の摂取量が少なく、肉を食べるようになったことも日本人が長寿になった一因と考えられている。

赤肉や加工肉を避ける必要はない

 したがって、赤肉や加工肉を避ける必要はなく、魚介類や鶏肉、野菜などもバランスよく食べていれば、大腸がんを過剰に心配することはないだろう。ただし、アルコール摂取量の多い人も大腸がんリスクが高くなるので、頻繁に焼肉を食べて、ビールを大量に飲むような生活は慎んだほうがいいかもしれない。

 また、特定の病気や遺伝的な要因で、大腸がんになりやすい人がいることもわかっている。たとえば、安倍晋三首相が患っている潰瘍性大腸炎やクローン病など炎症性の疾患がある人は、大腸がんになりやすい。内視鏡でポリープがたくさん見つかる人、大腸がんになった家族が多い人もリスクが高い。

 心あたりのある人はこれらの病気の治療を受けるとともに、便に血が混じっているかを調べる大腸がん検診(便潜血検査)や大腸内視鏡検査を定期的に受けたほうがいいだろう。複数の臨床試験を統合した研究で、便潜血検査を受ければ、大腸がんの死亡率が約16%低下することがわかっている。