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肛門を残すべきかどうか判断に迷ったら?

 だが、近年は手術の手技や器具の工夫が進んで、腫瘍が肛門から最短で2センチ離れていれば、肛門を残せることが多くなった。術後に直腸と肛門の縫合不全が起こらないように、一時的に人工肛門にするケースもあるが、通常、3ヵ月程度経てば人工肛門を閉鎖して、本来の肛門から便を排出できるようになる。

 専門性の高い病院なら、直腸がんの8~9割は人工肛門にしないですむようになった。ただし、無理に肛門を残すと、頻便になったり、便が漏れたりすることがあるので、注意が必要だ。一方、人工肛門は装具が進歩して匂い漏れなどが減り、皮膚トラブルなどをケアする「ストーマ外来」や「皮膚・排泄ケア認定看護師」も増えた。そのおかげで、以前より不便が減ったと言われている。

 したがって、とくに高齢者などの場合は人工肛門のほうが、ケアしやすいこともある。肛門を残すべきかどうか判断に迷った場合は、専門医や認定看護師の助言を受けるといいだろう。

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高度な技術が必要な自律神経温存

 直腸がんではもう一つ大事なことがある。それは、「自律神経を温存できるか」だ。直腸がん手術では転移のリスクを下げるために、直腸の横方向にある側方リンパ節を郭清(切除)することが多い。ただし側方リンパ節も骨盤の深い位置にあるため、取り残しなく切除するのが難しい。そのうえ側方リンパ節の付近には自律神経がたくさん走っており、これを切断すると排尿障害や性機能障害などの後遺症が起こる恐れがある。

 そこで、どこに自律神経があるかを見極めて、できるだけ切断しないようにする手術が試みられてきた。これを「自律神経温存手術」と呼ぶ。近年では、腹腔鏡手術で使う内視鏡カメラの性能がよくなり、リンパ節郭清も自律神経温存も精度が高まったと言われている。ただし、元々高度な技術が必要なので、開腹であれ腹腔鏡であれ、この手術の経験が豊富な病院で受けたほうがいいだろう。

 大腸がんでは、ロボット手術に取り組んでいる病院もある。とくに、骨盤の深い部分での処置が必要になる直腸がんでは、ロボットのほうが腹腔鏡に比べ手術器具の動きの自由度が大きいので、精度の高い手術ができると期待されている。

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 ただし、大腸がんのロボット手術はまだ保険適用になっていないため、臨床試験の被験者になる場合以外は、高額な自己負担を求められる。また、ロボット手術はメンテナンスのコストがかかる割に、腹腔鏡手術に比べて費用対効果が大きくないとして、導入に否定的な専門医も少なくない。

 いずれにせよ、大腸がんでロボット手術をすすめられた場合は、まだ有効性や安全性を検証している段階であることを理解したうえで、受けるかどうか判断すべきだろう。

出典:文春ムック「有力医師が推薦する がん手術の名医107人」(2016年8月18日発売)