介護士役の尾野が、妻を亡くして失意の日々を送る初老の男性の介護を担当するところから物語は始まる。彼の妻が眠る森へ2人墓参りに出かけるが、突然のゲリラ豪雨に襲われる。雨がやみ2人は焚き火で暖をとるが、次第に弱っていく男性を前に尾野は着ていた黒い下着を脱ぐと、男性の服もはぎ取って全裸で背中に抱きつき、全身をさすり始める。
そして2人は、森の中で互いを激しく求め合う。焚き火の揺らめく灯りに照らされ、尾野のあらわになったバストが揺れ動く映像は幻想的ですらある。喘ぎ声は寒さゆえのものか、快楽かわからない。互いに大切なものを失った者同士の情愛や絆を感じさせる名ラブシーンとなっていた。
監督の河瀬はこの映画で、日本人監督としてはじつに17年ぶりに2007年度のカンヌ国際映画祭の審査員特別大賞を受賞した。
全裸で切ない吐息をもらしながら胸をまさぐり…
28歳での映画『真幸くあらば』では、およそ10分にもわたる過激な自慰行為シーンを披露。全裸で切ない吐息をもらしながら胸をまさぐり、股間にも手を伸ばす。役に入り込むあまり、観客からは「リアルに感じているようにしか見えない」と反響が上がった。
それでもクリアなイメージは変わらず。29歳で朝ドラ『カーネーション』で初主演。ファッションデザイナーのコシノジュンコらコシノ3姉妹の母、小篠綾子がモデルの役を演じ、尾野は東京ドラマアウォードの主演女優賞や、朝ドラ初のギャラクシー賞テレビ部門・大賞受賞という快挙を成し遂げた。
筆者は、尾野が20代前半の頃に何度か取材や記者会見に出席しているが、常に飄々として、何事にもあっけらかんとしている印象を受けた。
「今後一緒に仕事をしてみたい監督や作品は?」という質問に「特にありません」と即答し、仕事の選び方についても「役者としての信念みたいなものはないので、その時々の気持ち次第で選ばせていただいています」と極めて正直に答える。
だが今振り返れば、彼女の「時々の気持ち」が常に時代の流れを正確にキャッチしていたことは間違いない。