「いいもの見たなあ。このあと仕事あるんですけど、もういいかも……」

 ゲストの仲野太賀は、スタジオでVTRを見終わると噛みしめるようにそう言って笑った。中京テレビ制作で今年4月から日本テレビ系列で放送されている『こどもディレクター』は街行く人たちに「自分の親に聞いてみたいことはありませんか?」と尋ね、その人にカメラを渡し、自らディレクターとなって家族を取材してきてもらう番組だ。「こども」と言うと、成人前の子を想像してしまうが、親からすれば何歳になっても「こども」のため、年齢制限は特にない。

「僕のことを愛していましたか?」と父親に聞いてみたいと答えたのは33歳の男性だった。父は怖い存在で「はい」と「いいえ」しか言わせてもらえず、冗談も言えない関係だった。しかし、その父は、10年前に他界し、直接取材することは叶わない。社会人になって家を出て、週末帰ったときにケンカをしてしまい「二度と帰ってくるな」と言われて以来、会わないまま突然心臓の病気で亡くなってしまった。母も10歳の頃に離婚し家を出ている。

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※写真はイメージ ©gotoshoji/イメージマート

 こどもは、親の交友関係など知らないことが少なくない。だから、葬儀に人はほとんど来ないのではないかと思っていたが、100人以上の参列者が訪れ驚いたという。そのため、会社の同僚なら、父の人となりを知っているのではないかと、香典袋を手がかりに“取材”を始める。自分に対する愛情の有無から、父の実像へと興味の対象が変わっていっていたのが興味深い。期せずして、自分の知らない父親を探す“旅”になっていった。そうして、「ここまで来たら行くしかない」と、父の死後、一度手紙をくれた会社の同僚の女性と10年ぶりに対面しに行くのだ。きっと、街で声をかけられ、この番組に参加していなければ、こういう形で父と向き合うことはなかっただろう。「インタビュー受けたときと全然違う形に物事は進んでる」と言うように、結末が見えない上質なセルフ・ドキュメンタリーになっていた。

 父を知る人物に会っていく中で、その不器用で愛情深い父の人物像があらわになっていき、結果的にいかに自分が父から愛されていたかを知る。そして、取材を始めて3ヶ月、葛藤を抱えながらも、離婚し離れ離れになった母にも会いに行く。それはまさにロードムービーのよう。その“終着点”は父の墓参り。「いつもより長い会話になるかな」と墓に向かう。「親父の態度が変わらないとしても僕の気持ちが変わってるんで、思い出の色が変わる」という彼の言葉は、この番組の核心を突いていた。過去と向き合い、長年の疑問が解消されたとき、思い出の意味もポジティブに変わっていくのだ。

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『こどもディレクター』
中京テレビ・日本テレビ系 水 23:59~
https://www.ctv.co.jp/kodomod/