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 藤井は飛車も叩き切り、歩・角・銀と連打し伊藤玉を包囲した。藤井の持ち駒は金だけになったのだが、この形が妙に受けにくい。しかも伊藤は飛車の配置が悪く、流れ弾に当たって取られてしまいそうだ。なるほど、こうやって攻めるのか。見えにくい手が見える。さすがの射程だ。正確さだ。

伊藤玉がしぶといことがわかり空気が変わった

©文藝春秋/石川啓次

 伊藤の残り時間が40分を切った。藤井はまだ1時間12分も残している。山崎隆之八段と戦った棋聖戦五番勝負第1局、第2局での冴えた指し回しを思い出した。初のカド番を迎えて「不調」といわれていた藤井は、完全に復活した。これは決まったか。控室でも皆がそう思っていた。

 と見ると、伊藤は△5三銀と、玉の真下、角取りに銀を打った。藤井が逃げつつ▲7三角成として、これが詰めろになっている。伊藤は△5二銀と銀を引いて玉の逃げ場を開けたが、ええっ、それじゃあ馬で王手飛車取りが掛かってしまうではないか。本譜では実際にそう進み、伊藤は飛車を失った。手番は回ってきても、銀取りに△7六歩と突き出しで反撃しても、あっちは穴熊でパンチは届かないのではないか。

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 検討では、王手で伊藤玉を下段に落とし、寄りだと見ていた。ところが、その玉を狭そうなところに逃げる手が発見された。控室には青野照市九段も訪れて一緒に検討していたが、このあたりで伊藤玉がしぶといことがわかり空気が変わった。

「(▲4六銀に対しては)玉を引いて受けるつもりでしたが、それがまずいとわかり予定変更です。本譜の手順も、保険で読んではいました。形勢は先手60~70パーセントはあるとは思いましたが、具体的にはどうやられるかわからなかったです」(伊藤)

山田久美女流四段は大盤解説会にゲスト出演した ©文藝春秋/石川啓次

 観戦に訪れ、大盤解説会にもゲスト出演した山田久美女流四段が控室にやってくる。

「対局室のモニターを見ながら解説していたんですが、藤井さんが(飛車取りを)指したら、伊藤さんは間髪入れずに歩を突いていましたね。なにか自信ありげに見えました。それにしても玉を広い方ではなくて、まっすぐ引いて大変とは驚きますね」