山本五十六に日本人が感情移入しやすい理由

半藤 そうです。最初はフィリピンの北方あたりで、大海戦をやるつもりだったんです。それが、船や飛行機の性能があがったため、マリアナ沖で決戦するという想定になった。いずれにしても迎え撃つ作戦で、積極的攻勢作戦ではありませんでした。

保阪 日本では、真珠湾まで乗り込んで叩くという発想自体が、開戦半年前までまったくなかった。黒島の案を採用した山本が、博打好きといわれる所以ですね。

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半藤 日本の艦隊は近海での戦闘しか想定していないから、航続距離もそんなに長くない。とりあえず出撃してきた敵艦隊をバーンと日本の近海で叩いて一気に講和に持ち込もうと。

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保阪 しかし、緒戦の勝利でそのまま戦い続け、分水嶺となったミッドウェーでも結局失敗して責任を取れないまま死んでしまった。途中で死んでしまったというのも、また日本人にとって感情移入しやすいんでしょうね。

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半藤 山本が死んだとき、新橋の元芸者さんで恋人だった河合千代子さんという人がいるんですが、この人が山本五十六が書いたラブレターを持っていたんです。海軍省はこれは表に出してはならないということで、沼津にいた千代子のところへ行って、強制的に焼かせたんですが、とくによい手紙は無事だった。千代子が隠したんですね。これらがまことに人間味があって面白いんですよ。千代子と一緒に出かけたことのある安芸の宮島から、山本が手紙を書いているんですが、「鹿がクウクウといっとったからウンヨシヨシと言ってやりました」とか何とか(笑)。国運を賭して戦っているときに何事だという気もしますが、こういうところがまた受けて、一段と名を上げたわけです。

保阪 山本のそういうところをまた人間らしいという人もいる。女遊びが人間らしいというのもどうかと思いますが、こういう艶話があると、またどうも人気があがるようですね。