「心那は天才だね。一生懸命やるとかじゃなくて、本当にスケートボードが好きでやってて、カッコいいことをしている。他にも名だたるスケーターはいるけど、だいたいケガをしてる。でも心那は骨1本折ったことないんじゃないかな。才能もあるし、センスもある。母ちゃんもすごく熱心だよね」

「上手さ」ではなく「カッコよさ」を貫いたワケ

 彼女を一言で表すなら「スタイル」という言葉に集約することができる。これはスケートボードコミュニティの中で、長年コンテストでの順位以上に大切にされてきた「個性」に当たる部分。開はその芸術点が際立って高いのだ。

銀メダルの開心那 ©JMPA

 多くのスポーツでは、“勝つため”のトリックを練習するのが普通だろう。

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 だが彼女はそこにこだわっていない。よく開の滑りの特徴として挙げられるのが、トラックと呼ばれるT字型の金属を使ってリップ(コース最上部の縁の部分)をゴリゴリと削る「ノーズグラインド」の完成度の高さと、空中に跳び上がって回転する「エア」で勝負しない2点。ただ女子パークにおいてエアの技「540」は、長年“勝てる”トリックと言われている。

 実際に金メダルに輝いたアリサ・トルーがわずかな差で勝てた最大の要因は、エアの「540」を徹底的に磨き上げ、バリエーション豊かにランを構成したからである。銅メダリストとなったスカイ・ブラウンもエアトリックに特徴のある選手だ。

左から銀メダルの開心那、金メダルのアリサ・トルー(オーストラリア代表)、銅メダルのスカイ・ブラウン(イギリス代表) ©JMPA

 ではなぜ開は「エア」で勝負しないのか。それは彼女が追求しているものが「上手さ」ではなく「カッコよさ」にあるからだ。

「ノーズグラインドは地元で滑ってるお兄さんの得意技で、その人に教えてもらいました。技の難易度以上にスタイルを重視してる人たちが多いんです」

 そういった先輩たちの姿に影響を受け、技を磨いてきたのだ。なりたい自分像はスタイルのあるライダー。「あの技の点数が高いから練習しよう」ではない。それよりもトリックチョイスやコースの使い方の方が重要であり、己の美学として貫いていると言うわけだ。

 これは個人的見解ではあるのだが、彼女ほどのスキルがあれば「540」も練習すれば習得できるのではないかと思っている。でもあえてやらないし、やりたいとも思っていないはず。