また、志賀町より先の奥能登は極めて被害が大きく、観光などという状況にない。
そればかりか「奥能登の復旧事業に関わっているお客さんから『地震の発生直後と何も変わっていない』と聞きます。今も断水したままの家や、風呂にさえ入れない人がいるのに、私達が『観光に来て』と大きな声で言うわけにはいきません」と悲しげだ。
「一刻も早く壊れた場所を直してほしい」
周辺も被災していないわけではない。
巌門の上は見晴らしのいい展望台の広場になっている。ところが、断崖の一部が崩れて、手すりは今にも落ちそうになっている。
高さ約30mの谷に架けられた長さ39mの「幸せのがんもん橋」は通行止めになったままだ。散策路もすぐ横の断崖が崩れて通れない。
「旅行会社は『巌門へのツアーを組みます』と言ってくれますが、年配客が多いので、安心して来てもらえません。一刻も早く壊れた場所を直してほしい」と女性は語る。
やっかいなことに、この辺りは個人の土地であってもすぐには工事できない。国定公園なので、勝手に改変できないのだ。
「何かしようと思ってもダメ。してくださいと言ってもダメ」と言う住民もいる。
岸田文雄首相は、宿泊費の7割を補助する「復興応援割」の具体化を表明した。だが、女性は「能登で泊まれるところは非常に少ないのに、果たして応援になるでしょうか。まずは安全に観光できるよう被災箇所を直すのを急ぎ、それから復興応援割を検討してもいいのでは」と話していた。
客が戻りつつある遊覧船
そうした中、少しではあるが、客が戻りつつある分野もある。巌門などを巡る遊覧船だ。
3隻の所有船のうち、2隻が津波で壊れたが、修繕を終えた2024年7月13日から通常運航を再開した。
巌門に来た人の多くは乗るものの、絶対数が少ない。運営する能登金剛遊覧船によると、「8月になっても例年の3分の1から4分の1程度の乗船しかなく、1回当たり1家族か2家族ぐらいのお客さんです。和倉温泉に泊まれないので、北陸3県からの日帰りや、金沢に泊まって往復する人に限られています」と語る。
前出の女性は「新型コロナウイルス感染症の流行から、やっと次に進めるという時の地震でした。今は貯えを取り崩しながら耐えており、この状態が長引けばどうなることか」とうつむく。
光はなかなか見えてこない。